小売電気事業者がシェアを維持・拡大していくため、料金メニュー以外にも顧客満足度を高めるサービスへの期待が高まっている。このため、電中研は、中小事業所向けにスマメデータから省エネアドバイスレポートを自動生成するシステムを開発し、サービスの実装支援を進めている(図)。
図 開発したシステムのイメージ
事業所の稼働状況は、需要の変化に影響する重要な要因だが、事業所が暦通りに稼働しているとは限らず、稼働日が記録されていることも稀である。在室状況を推定するセンサーもあるが、設置にはコストがかかる。
そこで、電中研ではスマメデータのみから事業所の稼働状況を推定する手法を構築した。これによって稼働状況が時間帯毎に把握できるようになる他、事業所が部分的に利用されている半稼働状態の把握も可能となる。
さらに、稼働状況の推定結果を利用して空調需要を推定する、簡易用途分解手法を開発した。空調需要が大きい時季や時間帯の把握が可能となり、年間空調需要の推定誤差は平均10%以内となった。
このような過去の需要傾向の分析だけでなく、将来の需要に関する情報提供にもニーズがある。特に事業所の料金体系は、最大デマンドが電気料金に直結するものが多く、ピーク需要に関する事前アラートは有用である。
電中研では、最大デマンド発生の予測に適した手法を開発した。1時間先アラートでの最良ケースでは、再現率(警戒水準超過の見逃しの少なさ)は74.8%、適合率(誤報の少なさ)は86.3%となった。
デマンド監視装置やBEMSを有さない多数の小規模事業所にもデマンド警報を提供できる点が魅力である。また、それらの機器が提供するデマンドアラートの多くは、30分より近い将来の予報に限られるが、開発した本手法ではより先の将来のデマンドが予測できる点にも利用価値がある。
今後さらにスマメデータの活用余地がある分野には、設備運用の不具合(フォルト)検知と、省エネ効果量測定がある。BEMSデータを用いてフォルト検知を行う製品は存在するが、スマメデータで検知を自動化できれば、より幅広い需要家へのサービス提供が可能になる。
また、半自動的に省エネ対策の効果測定を行うEM&V(Evaluation, Measurement, and Verification)2.0も近年米国等で注目されている。スマメデータで推定した需要予測の結果から実需要が低下した量を省エネ対策の効果とみなす手法であり、専門家の手間を極力かけず、多数の需要家に適用できる点が特色である。精度が十分になれば、過去の省エネ提案の効果の可視化や、より的確な省エネ提案も可能になる。
なお、研究レベルでは、スマホアプリなどの簡易な代替手段で、稼働状況よりも詳細に、建物内の在室状況まで把握する手法も提案されている。こうした方法を各種データ分析と組み合わせた、より多様な顧客情報サービスも期待される。
電気新聞 2020年5月13日掲載