電力中央研究所

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電中研ニュース

電中研NEWS No.494
電柱の構造強度把握に向けて
-画像処理による振動の計測可視化-

電力流通

住宅や事業所への電力供給を支える配電柱(以下、電柱)は2019年現在、国内に約2,200万本設置されています。一般送配電事業者は各電柱の状態に応じて補強・更新を行っていますが、設備老朽化や保安作業に携わる人員の減少、自然災害の頻発化・激甚化に備えて、電柱の状態把握の更なる効率化が求められています。現在の巡視点検では主に電柱の表面状態(ひび割れや傾きなど)が目視で確認されている一方、内部の鉄筋腐食、基礎や地盤の状態変化、柱上設備(変圧器等)の取り付け状態(固定部の緩み)など、表面からは観測が難しい強度低下を把握する取り組みは途上にあります。こうした強度低下は、一般に外力に対する応答特性(変位・振動)に現れるとされますが、これを計測するには多数のセンサを各電柱に設置する必要があり、約2,200万本の既設電柱への適用は難しいのが現状です。

当所では、カメラによって電柱各部の変位・振動を低コストかつ効率的に計測・可視化する技術を開発し、強度評価に役立てるための研究を進めています。

注:これに加えて、通信会社所有の電柱も配電に利用されています。

電柱の高経年化と強度低下の例

目次

1. カメラによる振動の計測と可視化

2. 電柱の自然振動の可視化

3. 構造強度把握に向けて

●関連する報告書

1. カメラによる振動の計測と可視化

カメラによる微小変位の計測

電柱は風などにより微振動していますが、通常は目視できるほど揺れることはありません。しかし、昨今の高解像度カメラで電柱の動画を撮影し、その表面模様の動きを解析することにより、揺れの方向や大きさを計測することが可能になります。この解析処理では各時刻の画像について基準時刻の表面模様が最も合致する位置、大きさ、角度を探索します(図1(a))。精度はカメラの解像度やレンズ、撮影距離にも依存しますが、撮影距離1mで10μmオーダーの変位や10μrad注1オーダーの回転角が計測可能であることを確認しています。こうして得られた時系列変位(図1(b))にフーリエ変換を適用することで、時系列変位を様々な周波数の成分に分解し、各成分の強度(振幅)を分析できるようになります。なお、微小な振動を得るにはカメラ自体が静止している必要があるため、通常は三脚などに固定して撮影を行います。

注1:10μrad≒6×10-4°(度数法表記)

図1

図1 表面模様の探索による時系列変位の取得

振幅を強調した映像の生成

カメラで撮影した動画を使い、電柱などの被写体の振動を計測し強調表示する手法を開発しました。本手法では、まず画像上の各点について表面模様の追跡処理を行い、各点の時系列変位を個別に求めます(図2(a))。次に、得られた変位の大きさを指定倍数だけ拡大した座標に元の画素値を転写する処理を行います(図2(b))。これを各時刻について行うことで、任意の倍率で振幅を強調した映像を生成します。時系列変位を周波数変換し、特定の周波数を抽出する処理を加えれば、周波数ごとの挙動を分解して可視化することが可能になります。

図2

図2 各点の変位を強調した画像の生成

2. 電柱の自然振動の可視化

電柱各部の主要な振動成分の特定

当所 横須賀地区構内に設置した試験用電柱を撮影し、その動画に開発手法を適用して振動の可視化を試みました。実験では自然風(風速10m/s)環境下での電柱の動画(3,500万画素, 120fps, 37秒間)を撮影しました(図3(a))。電柱の主要な振動成分を求めるため、特に揺れやすいと思われる柱体頂部および柱上変圧器部の時系列変位を計測し、その周波数スペクトルを確認しました。この結果、柱体頂部の画像水平方向変位が1.5Hz、画像垂直方向変位が1.1Hzでピーク(振幅2.7画素, 1.1画素)を示し(図3(b))、柱上変圧器部については、柱体には存在しない固有の周波数成分に着目すると、回転角が8.8Hzにピーク(振幅134μrad)を持つことが分かりました(図3(c))。これらが各部材の固有振動数注2の一つと推測できます。

注2:構造物が持つ固有の周波数であり、一度力が加わると外部からの力を与えなくとも、その物体自身が振動を続ける時の振動数

図3

図3 電柱各部の周波数スペクトル

振動の可視化

1.1Hz、1.5Hz、8.8Hzの各周波数について、各振動を1,000倍に強調した映像を生成しました(図4)。この結果、1.1Hzでは架線方向、1.5Hzでは架線直角方向に柱体がしなる様子を確認できました。これは典型的な電柱(コンクリート柱)が架線方向と架線直角方向とで異なる固有振動数を持ち、1次の固有振動数が1-2Hzの範囲にあるとの既往研究注3の報告結果と整合しています。また、8.8Hzでは変圧器が回転方向に揺れ、柱体とは異なる動きをしていることが確認できました。これらの結果から、動画から電柱の各部材の振動を可視化する基礎検証ができたと考えています。将来的には巡視点検時に撮影した動画から振動状態を割り出し、構造強度の簡易評価の材料とすることが期待できます。

注3:高畠大輔, 金澤健司, 朱牟田善治. 配電柱上設備の性能照査型耐震性能評価法, 日本地震工学会論文集第20 巻,第1号(特集号). 2020, 226-244.
     藤江幸人, 井ロ重信, 松田芳範, 小林薫.新幹線走行に伴うPRC単純桁の振動について. コンクリート工学年次論文集, 30, 3, 2008.

動画

1.1Hz

動画

1.5Hz

動画

8.8Hz

図4 各周波数の各振動を1,000倍に強調して可視化した例

3. 構造強度把握に向けて

データ収集と多面的な知見の統合を加速

今後は、カメラ性能や撮影距離、天候など様々な条件での精度検証を行うとともに、多方面の知見と統合して構造強度の評価方法の確立に取り組みます(図5)。

電柱の振動挙動は、少サンプルの振動試験やシミュレーションなどでは先行研究例があるものの、既設電柱に対しては合理的なコストで計測する手段がこれまで無かったため、データが十分に蓄積されていません。本技術を用いれば実地のデータを低コストで数多く蓄積することが可能になります。大量の実地データが集まれば、破壊・振動試験やシミュレーションによる強度分析結果と照らし合わせることで、従来知見との相互検証やモデルの深化・精緻化が期待できます。

当所では、こうした研究や活動を通じて電柱の構造強度をより簡便に把握・評価するための仕組みづくりに取り組んでいきます。

図5

図5 多数の既設電柱から振動状態のデータを取得し、
負荷試験(破壊・振動試験など)やシミュレーションの知見と統合

●関連する報告書

担当研究員

高田 巡/たかだ じゅん
グリッドイノベーション研究本部 ファシリティ技術研究部門 上席研究員

2023年2月掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry