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ヒートポンプは低い温度から高い温度へ熱を汲み上げる技術で、家庭用の空調機(エアコン)をはじめ、冷蔵庫・冷凍庫、給湯機(エコキュート)等、様々なものに適用されて、「省エネルギー技術」、CO2排出量を削減する「省CO2技術」として注目されています。
当所では、ヒートポンプにより人々の暮らしを一層豊かなものとするために、空気の湿度を積極的にコントロールすることに着眼し、その技術開発を進めています。
湿度コントロール技術を組み込んだヒートポンプの熱および水の流れの例(暖房・加湿時)
目次
湿度をコントロール可能なものに吸着剤があります。吸着剤は細孔構造によって水分を吸着し、温めると水分を放出する性質を有し、代表的なものとしてシリカゲルやゼオライト、高分子等があります。例えば、室内を加湿したい場合は、吸着剤を温めることで吸着した水分を放出し、室内を除湿したい場合は、吸着剤が水分を吸着します(図1)。
図1 吸着剤を利用した湿度コントロール
当所では、この吸着剤の性質に着目し、熱交換器に吸着剤の一つである高分子吸着剤を塗布し(図2)、これをヒートポンプに組み込みました。熱交換器に塗布された吸着剤は、ヒートポンプの冷媒によって加熱と冷却される際に空気の加湿や除湿を行うことができるため、湿度コントロールのためのヒーターや冷却装置が不要となり、付帯設備の設置費用削減につながります。
図2 吸着剤塗布熱交換器の(a)仕組みと(b)実物
ヒートポンプに組み込んだ塗布熱交(吸着剤塗布熱交換器)の加熱や冷却は、前後に設置した膨張弁の開・閉によって切り替えることができます。例えば、塗布熱交を冷却して外気から水分を吸着し、次に膨張弁の開・閉を逆にして塗布熱交を加熱、吸着した水分を室内に放出し、加湿することができます(図3)。
図3 (a) ヒートポンプによる加熱と(b) 吸着剤による加湿
湿度コントロール技術を組み込んだヒートポンプは様々な用途に適用することができ、それぞれの用途で利便性向上や付加価値の提供が期待されます。
当所では開発したシステムを活用することで以下のような課題解決に繋げることができると考え、社会実装に向けた研究開発を進めています。
当所では、現行の空調システムの省エネルギー性能(省エネ性)と快適性の一層の向上に向けた新しい空調システムとして「潜顕熱分離空調システム」を考案しました。
本システムは、室外ユニット、室内ユニットおよび塗布熱交ユニットの三つのユニットから構成されています(図4)。室外ユニットと室内ユニットは、従来機とほぼ同じ構造をしており、室内の温度調節を行います。塗布熱交ユニットでは、塗布熱交により室内の湿度を調節します。これらにより、空調機一台で温度と湿度を合わせて調節することができます。
図4 潜顕熱分離空調システムの構成
また本システムを適用することにより、除湿のために熱交換器の温度を下げる必要がなくなること、排熱で吸着剤を再生できることから、ヒートポンプの効率向上につながります。 省エネ性について数値解析を行ったところ、夏場(6 ~ 8 月)、冬場(12 ~ 2 月)ともに平均約20%の改善効果が得られました。 また、無給水で加湿できるため、加湿器、排水管が不要になり、雑菌発生の抑制などにもつながります。 さらに、室内の湿度環境は、実験では夏場、冬場ともに快適な湿度範囲と言われる40 ~ 60%の範囲内で調節できる結果を得ました。
電気自動車(EV)はエンジンを搭載していないため、ヒーター暖房を設置すると走行距離が大幅に低下します。
このため、ヒートポンプ暖房が採用されていますが、ガラス防曇のための外気導入による車内の加熱負荷の増加や、室外の熱交換器の除霜などへの対応のために電力使用量が増えてしまいます。
そこで、当所は車内のガラス防曇のため、電気自動車用に湿度コントロール技術を適用したヒートポンプ空調システムを提案しています。このシステムを組み込んだ電気自動車では、ヒーター暖房(179km)から約140km、ヒートポンプ暖房(285km)から35km の走行距離の延伸が見込まれ電力使用効率が改善されます(図5)。
図5 走行距離の改善効果試算結果
コンビニエンスストアやスーパーの冷凍・冷蔵ショーケースは、冷却器によって庫内を冷やしています(図6)。 この冷却器の運転中は霜が付着するため、定期的に除霜運転を行う必要がありますが、これには、消費電力の増加と庫内の温度上昇というデメリットをともないます。
湿度コントロール技術を組み込んだヒートポンプを活用すれば、冷却器に霜が着かなくなり(無着霜)、除霜運転が不要となるため、約20%の省エネを実現するとともに、庫内の温度上昇にともなう食品への影響も抑えることが可能になり衛生環境の改善につながります。
また、大型の冷凍・冷蔵倉庫に適用すれば、倉庫内のミストによる視界不良や床の結露を防止することができ、作業安全性の向上につながると期待されます。
図6 庫内冷却器の外観と無着霜の原理
今後は、吸着剤塗布熱交換器の熱・物質移動特性を実験及び数値計算により詳細に把握するとともに、提案したシステムの社会実装に向けて、電力会社やメーカーと連携し、さらなる技術開発に取り組んでいきます。
2021年2月掲載