電力経済研究
「電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。一時休刊ののち、2015年3月にリニューアル復刊しました。
電力経済研究
No.68(2022年1月)
特集「海外における原子力発電への期待と課題」
特集のねらい
世界的な脱炭素社会に向けた動きが加速化する中、諸外国では原子力発電の役割を見直す動きがある。既に確立された技術によって二酸化炭素の排出を大幅に削減できる原子力発電は、わが国を含めた主要国が目標とする2050年カーボンニュートラルを目指すという観点から、積極的に活用されるべき現実的な選択肢といえる。しかし、原子力発電を脱炭素化のために重要な電源として明確に位置づけている国は決して多くはなかった。原子力発電に固有の安全性の向上や廃棄物に関わる課題はもとより、電力市場が自由化された中で、特に民間の事業者が、投資リスクの大きい原子力発電の新増設に踏み切ることは困難という現実があり、既設炉も早期閉鎖を余儀なくされるような状況がある。
そのような状況を放置すれば、脱炭素化の目標の達成が危ぶまれるとの懸念から、いくつかの国や国際機関を中心に、新増設に向けた投資の予見性の確保に加え、既設炉の維持、技術革新の促進、社会との関係構築など、原子力発電が直面する社会的・経済的課題の克服に向けた様々な取り組みが進められている。その中には、脱炭素化や安定供給に対する原子力発電の貢献が適切に評価されるような事業環境整備に加え、原子力事業者や関係機関が、電力システムや社会における原子力発電の新たな可能性を自ら切り開いていくような試みもある。
電力中央研究所・社会経済研究所では、諸外国の原子力発電の事業環境整備に向けた取り組みの中でも、わが国にとって参考となりうる事例に着目し、調査分析を進めてきた。本特集では、ここ数年間の成果として、気候変動対策として原子力発電の新増設を進めようとする英国の事例を中心に、投資の予見性と政策的支援、既設炉の活用と固定費回収、イノベーションの推進、許認可に係る規制行政、政策の変遷と国民意識など、様々なトピックスを取り上げた。海外の動向を客観的に評価することを主眼に置き、わが国への示唆については今後の検討課題として残されている他、取り上げることのできなかった論点も少なからずあるものの、本特集が、2050年カーボンニュートラルに向け、原子力発電という選択肢を有効に活用するための建設的な議論に向けて、参考となれば幸いである。
2022年1月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
服部 徹 稲村 智昌
●第1部 新増設に向けた投資の予見性と政策的支援
論文
原子力発電所の新増設に対する国の支援策と競争政策との関係
-英国 Hinkley Point C 原子力発電所への支援策を巡る議論から- …15
英国における新設原子力発電所の資金調達手法
「規制資産ベース(RAB)モデル」の導入をめぐる議論 …31
研究ノート
英国の新設原子力発電所を対象とする廃棄物移転価格制度の概要
-政府と民間の責任分担のアプローチ- …47