電力経済研究
電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。一時休刊ののち、2015年3月にリニューアル復刊しました。
電力経済研究
No.67(2020年12月)
特集「多様化する電力経営」
特集のねらい
1990年代初頭に英国やノルウェーなどを起点とする電力自由化の波は、その後わが国にも及び、1995年には電気事業法が改正され、およそ30年ぶりの電気事業改革が始まった。あれから、もう25年が経過する。この間、大口需要家を対象とした小売の部分自由化や卸電力市場の設立など、自由化の施策は一歩一歩進められてきたが、2011年に発生した東日本大震災はその歩みを一気に加速させた。2013年以降は「電力システム改革」という名の下で、広域系統運用の拡大、小売の全面自由化、送配電部門の法的分離などを柱とした施策が進められてきた。また、新市場の設立といったさらなる施策が打ち出されていることは、前号にあたる電力経済研究66号の特集で論じたとおりである。
このような電気事業者をめぐる事業環境変化は、当然のことながら電力会社の経営に大きな影響を与えうる。実際に電力自由化が先行した欧米諸国において、既存の電力会社の多くはこのような環境変化に対応し、従来の垂直統合型の電気事業を脱して、実に多様な姿に変貌を遂げている。さらに近年では、脱炭素化、デジタル化、分散化といった新たな変革の波に対しても、果敢に乗りこなすべく、従来の電気事業の枠を超えて、様々な挑戦を行っている。
電力中央研究所・社会経済研究所では、このような国内外の電気事業を巡る事業環境変化や、それに対応して多様化する電気事業者の経営や戦略について、事例調査から定量分析に至るまで、様々な角度から研究に取り組んできた。その一端として、本特集号では、多様化する電力経営に関連した、多様な論考を取り揃えた。欧米の事例を概観した総説1篇を皮切りに、事業環境変化への対応と評価に関するものを3篇、新たな価値の追求やその課題について述べたものを4篇、電力経営の多様化に適応する経営資源の活用に関するものを1篇、それぞれ収めている。
わが国の電気事業は、急激な変化のまさにただ中にある。本特集が、その先にある多様な課題と可能性について思い巡らし、次のステージに向けて乗りだす手がかりとなれば幸いである。
2020年12月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
筒井 美樹
総説
多様化する電力経営
-欧米事業者の事業ポートフォリオの類型化と日本への示唆- …1
●第1部 事業環境変化への対応とその評価
論文
米国の原子力事業者Exelon の経営戦略とパフォーマンス
-原子力発電と事業ポートフォリオが収益性に与える影響- …19
発電・小売事業における範囲の経済性の評価
-米国民営電気事業者を対象とした実証分析- …35
研究ノート
電力先物市場の流動化に向けた考察
-戦略的リスクヘッジ取引の実現に向けて- …51
- 遠藤 操
- 松本 拓史
●第2部 新たな価値の追求と課題
論文
英国の電力小売市場における新規参入者の分析
-変化を踏まえた経営ビジョンに関する考察- …67
研究ノート
データプラットフォーム事業の収益化検討に向けて …85
電気事業におけるAI 技術の活用にともなう法的課題
-知的財産法の問題を中心に- …91
わが国の電気事業者におけるサイバーセキュリティガバナンス強化の検討 …99