電力経済研究

電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。一時休刊ののち、2015年3月にリニューアル復刊しました。

電力経済研究

No.65(2018年4月)

特集「温暖化対策はどうあるべきか
-国内政策・国際枠組み・長期戦略の体系的検討」

特集のねらい

パリ協定が2015年12月に採択され、世界の温暖化対策は新たなフェーズに入った。米国のトランプ大統領は2017年6月1日に協定からの脱退意向を表明したものの、他の多くの国は2030年、さらには2050年に向けた取組みを強化しつつある。日本においても、2030年目標(2013年比で26%削減)の達成に向けた施策や、2050年に向けた長期低排出発展戦略が議論されている。たとえば、資源エネルギー庁が2017年8月に設置した「エネルギー情勢懇談会」は、2018年4月に「エネルギー転換へのイニシアティブ」と題する提言を取りまとめ、再生可能エネルギー、水素・炭素回収貯留、原子力などの多様な技術選択肢に基づく野心的なシナリオを複線的に想定した上で、世界のエネルギー情勢と技術革新の進展度合いを見極め、選択肢間の重要度合いを柔軟に修正するための科学的レビューメカニズムを設けるとの考え方を示した。環境省が2017年6月に設置した「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」は、2018年3月に取りまとめを公表し、今後の制度検討の方向性として、①炭素税、②排出量取引と炭素税の組み合わせ、③直接規制(①または②との併用を含む)という3案を提示した。今後、長期戦略の提出や、2020年に控える2030年目標の再提出に向けて、長期的に目指すべき姿や短中期的に必要な政策の議論が加速していくものと見られる。

本特集号は、電力中央研究所で実施している温暖化対策に関する政策研究の成果を所収し、温暖化対策を巡る政策課題に対して知見を提供することを狙いとしている。論文7篇、研究ノート2篇、研究トピックス紹介1篇に加えて、これら10篇を総括し、国内政策、国際枠組み、長期低排出発展戦略という3つの政策課題を総合的に論じた総説を冒頭に掲載した。それぞれの文献は独立しており、別個に読むこともできるが、最初に総説を一読された後に、そこで展開された議論を支える10篇の文献をご覧いただくと、本特集号の全体像を把握しやすいかと思う。

温暖化対策は「国内と国際」や「短期と長期」など、空間と時間の両面において広がりがあるため、全体を見渡すことが難しい。他方で、個々の論点は非常に入り組んでおり、単純には切り取れないところがある。読者の皆様にとって、本特集号が温暖化対策の全体像を把握し、同時に個々の政策上の論点についての理解を深める一助となれば幸いである。

2018年4月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
上野 貴弘

総説

温暖化対策はどうあるべきか
-本特集号の概要と政策課題への示唆- …1

 

●第1部 国内政策-カーボンプライシングを巡って

論文

東京都の排出量取引制度の評価
-事業所インタビュー調査に基づく効果の検証- …17

 

国の温暖化対策関連経費の推移と費用対効果
―温暖化対策税収は有効に使われているのか― …32

 

経済成長と環境負荷のデカップリングの解釈をめぐる課題 …45

 

研究トピックス紹介

炭素税と三重の配当論 …55

 

●第2部 国際枠組み-パリ協定の行方

論文

トランプ大統領のパリ協定脱退表明をどう捉えるか …67

 

パリ協定における国別目標の進捗捕捉の試み
-中国を事例とする分析と協定実施指針への示唆- …82

 

●第3部 長期低排出発展戦略-ゼロ排出の将来に向けて

論文

2℃目標と整合的な長期の排出削減について
-IPCC シナリオデータベースを用いた検討- …101

 

CO2の長期大規模削減と電化
-排出制約下における電化の促進と電力需要の関係性- …121

 

研究ノート

CO2の長期大規模削減とロックイン問題
-家庭用給湯器の事例にもとづく考察- …136

 

長期低排出発展戦略の項目・構成の比較 …145

 

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