電力経済研究
電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。一時休刊ののち、2015年3月にリニューアル復刊しました。
電力経済研究
No.63(2016年3月)
特集「東日本大震災以降の電力需要の減少をどうみるか」
特集のねらい
将来の電力需要の見通しは、販売、設備計画や燃料調達計画などに直結することから電気事業の経営の根幹に関わるだけでなく、エネルギー安全保障(エネルギー自給率)、経済性(エネルギー・電力コスト)、環境(CO2排出量)の3Eの観点においても、日本の将来のエネルギー政策や環境政策の行方を左右する重要な前提条件である。
これまで電力需要の予測は、経済指標と電力需要との強い相関を根拠としてきたが、東日本大震災以降、経済が回復基調にあるにもかかわらず電力需要は数年にわたって伸び悩んでおり、「震災による一時的な影響(ショック)」というだけでは説明が難しくなっている。こうした状況に対して、「震災を契機に日本の電力需要構造は大きく変化し、省エネ社会に向けた新たな段階に入った」という見方がある。例えば、2015年7月に出された政府の2030年までの長期エネルギー需給見通しにおいて、年率1.7%の経済成長の下で電力需要の伸びが年率0.1%にとどまっているのも、こうした見方に沿ったものである。しかし、こうした野心的な省エネの達成を前提とした結果、仮にそれが達成できなかった場合には、供給設備の不足、燃料コスト増による電気料金の上昇、CO2排出量の増加を招き、本来、3Eの目標達成のために必要であったはずの施策の検討にも支障をきたしなかねない。こうした点からも、「従来は強い相関がみられた経済指標と電力需要の関係は、再び元に戻りうるのか」について検証を重ねていく必要がある。
実際に何が起こっているのかを真に理解するためには、家庭や企業の行動を踏まえたミクロデータによるボトムアップの視点も欠かせないが、本特集では主に集計量を対象にしたマクロ―データによるトップダウンからの分析アプローチをとっている。中長期的なトレンドを踏まえ、震災後の変化要因を把握するには、トップダウンの視点が有効であると考えるためである。当所では以前より産業や地域といった多面的な視点から分析に力を入れてきた。本特集でとりあげているマクロ分析はその成果である。これらの分析を、ミクロデータによる分析で補完することにより、より精密な分析と理解に接近することが可能となるが、それは今後の課題としたい。
まず第1部では、経済理論、実証分析の2つのアプローチから、産業部門、家庭部門のそれぞれにおける震災前後の電力需要の変化要因をどうみるか、という問題に取り組んでいる。続く第2部では、地域も含めた将来の電力需要に大きな影響を与える要因として、人口高齢化や単身世帯の増加、製造業企業の国内生産動向、各地域の産業やエネルギー需要構造の変化に着目した分析に取り組んでいる。
これまでのところ、震災以降の電力需要の変化要因について、確定的な結論を得るには至っていないが、少なくとも経済成長を見込むのであれば、電力需要が将来にわたって減少を続けるとは考えにくいというのが、今回得られた分析結果からの示唆である。今後も引き続き注意深い観察を重ねる必要があるが、本特集がそのための議論の一助となれば幸いである。
2016年3月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
星野 優子 林田 元就
●第1部 東日本大震災前後の電力需要の変化要因をどうみるか
研究論文
東日本大震災後の電灯需要変化の要因分析 …1
研究トピックス紹介