電力経済研究
電力経済研究」は電気事業、電力産業に関わる社会経済・制度問題を対象分野とし、課題指向型、問題解決型に関連した研究成果などを掲載し、学術の振興に寄与することを目的とした雑誌です。一時休刊ののち、2015年3月にリニューアル復刊しました。
電力経済研究
No.61(2015年3月)
特集「電力システム改革における制度設計のリスク」
特集のねらい
電力システム改革は、わが国の電力供給システムに一層の競争を導入し、安定供給の維持と効率性の向上を実現すべく市場原理の活用を図っていくものである。同じような理念の下、海外でも電力市場の整備と競争の導入が進められてきたが、それは必ずしも十分な成果を上げているとは言い難く、所期の目的を達成できずに当初の理念とは異なる方向に進んできているという現状すらある。少なくとも、その制度設計においては試行錯誤が続いている。
競争の導入や市場原理の活用は、理念として否定されるべきものではない。しかし、電力という財の需要と供給の様々な特徴ゆえに、現実の制度設計は様々な課題に直面してきた。これまでの規制の下での問題を解決するために、競争を促し、市場原理を活用するべく導入した制度が、かえって混乱をもたらし、効率化が進まない上、安定供給に懸念が生じることすらある。そうなれば、いったい何のための改革だったのかと、否定される必要のない改革の理念すら否定される可能性がある。
我々は、電力システム改革の制度設計には様々なリスクが潜んでいるとの認識の下、それらを明らかにし、いかに対応すべきかを考え、調査研究に取り組んできた。最終的な目標は電力システム改革における「制度設計のリスクマネジメント」を確立することであるが、まだ道半ばである。しかし、先行する海外の事例や経験を理論的に捉え直すことで、わが国の電力システム改革がこれから直面しうる問題を想定し、個々の制度設計にどのようなリスクが潜んでいるかを明らかにすることはできる。今回の特集は、そうしたリスクのいくつかについて検討した論文で構成されている。
自由化された発電分野で十分な供給力を確保するための容量メカニズム、卸電力市場における市場支配力に対する監視、市場参加者間の長期契約に対する競争法の適用、小売市場における差別価格に対する規制当局による制限、という4つのテーマは、一つの問題を解決するために導入される制度や仕組みが、また別の問題を引き起こすことになり、不安定な改革が延々と続いていくリスクを扱っている。十分に掘り下げられなかった部分も今後の課題として多々残されているが、これらの論文が今後の議論の参考になれば幸いである。
2015年3月
編集責任者
電力中央研究所 社会経済研究所
服部 徹