2017年5月22日
日本人は、とかくランキングものが好きだという定評があります。いろいろ理由はあるのでしょうが、少なくとも研究者としては、必要以上の好悪の念を抱いたり、過度に一喜一憂することは避け、事実としての統計データによる客観的な順位付けか、意識調査(アンケート)の結果か、複雑な分析の結果か、など、その裏側も見通した上で、有益な情報があればそれのみを拾い上げるようにしたいものだと思います。
個人的に注目しているランキングを、いくつかご紹介します。
○ 世界の国民幸福度ランキング
「世界幸福度レポート(World Happiness Report)」(注1)は、2012年(ただし2014年版は無い)から公刊されている報告書で、「はしごスコア(ladder score)」により世界各国の「幸福度」を評価し、ランキング付けしているものです。
最新2017年版によると、世界第1位の幸福度を誇る国はノルウェー(スコア7.537)で、その後デンマーク、アイスランド、スイス、フィンランド、オランダと、北欧諸国が多く上位を占めます。7位以下はカナダ、ニュージーランド、オーストラリア、スウェーデンと続きます。その他主要国では、米国は14位(6.993)、ドイツ16位、英国19位、フランス31位、イタリア48位。日本はと言えば、51位(5.920)で、ロシア(49位)、中米のベリーズ(50位)の下、リトアニア(52位)、アルジェリア(53位)の上に位置します。韓国は56位(5.838)、中国は79位(5.273)です。
日本の順位が低いとのご不満を感じる方もおられるかもしれません。この分析は、以下6つの主要指標についての各国の分布の回帰式を求め、その上で各国の数値を、その合計値(ladder score)が0-10の間の値を取るよう調整して加算します。
さらに第7の指標として、”Dystopia + residual”が加算され、全体スコアになります。上記6つの指標は、2014-16年の平均値が世界最低の値(1.85)を取った国(Dystopia)との差分で表されるため、まず1.85を足し、さらに2014-16年の各国の残差を加算します。さて、日本の値、というよりも本調査の手法について、2つの点を補足したく思います。
なお、2016年版では、上位国の顔触れは(デンマーク1位、ノルウェー4位など順位の入れ替わりはありますが)変わらず、米国は13位でスコア7.104(注2)、日本は53位でスコア5.921です。
○ 世界の都市ランキング
類似のランキングとして、これも経年的に公表されている「都市ランキング」を、併せてご紹介しておきます。
英エコノミスト誌の調査部門は、「世界の都市住みやすさ(Liveability)ランキング」を毎年公表しています。2016年版(注3)によれば、世界140都市のうち、1位はメルボルン(オーストラリア)、以下2位ウィーン(オーストリア)、3位バンクーバー(カナダ)と続き、10位ハンブルク(ドイツ)までを、オセアニア・欧州の都市が占めます。報告書(概要版)には11位以下の詳報がないのですが、東京は10位台には入っているものと想像されます。
分析手法は上記「幸福度」に類似していますが、考慮した指標は5カテゴリ(安定性、保健医療、文化・環境、教育、インフラ)30項目に上り、相互に重みづけして100点満点のスコアとして算出しています。
同様の「住みやすい都市」ランキング(注4)が、2017年4月に英国の人材会社ECA Internationalから公表されました。この調査は、同社が毎年実施している、世界470都市での生活の質の比較調査の一環であり、アジア人駐在員にとっての住みやすさを比較してランク付けしています。評価対象項目は、気候、医療サービス、住居及び公共サービス等多岐にわたり、企業が国外駐在員の派遣の際の生活支援策の参考として提供しているものです。
世界トップの住みやすさと評価されたのはシンガポールで、16年連続の世界一とのことです。アジア太平洋地域がベスト10をほぼ独占する中で、同率2位のアデレード、ブリスベーン、シドニー(いずれもオーストラリア)に続き、5位に大阪、6位ウェリントン(ニュージーランド)、同率7位に名古屋、パース(オーストラリア)と続きます。
東京と横浜が同率で10位(世界全体では同率11位)(注5)となっています。2013年版で世界11位(アジア太平洋地域9位)と評価された香港が、世界29位(アジア太平洋15位)に凋落したことが注目されています。それでも中国ではトップにありますが、ランキングのより上位の都市が生活の質の向上を示している一方で、香港は大気汚染の深刻化と政治的緊張の高まりがランクを落としたと評価されています。
米国のコンサル企業A.T.カーニー社は、世界各都市の2種類の「グローバル度」ランキングを公表しています。2016年調査(注6)によれば、「グローバル都市指標(Global Cities Index)では、1位ロンドン、2位ニューヨーク、3位パリに続いて、4位に東京、5位に香港、9位北京、11位にソウル、20位に上海が続きます。「グローバル都市展望(Global Cities Outlook)」では、1位サンフランシスコ、2位ニューヨーク、3位ボストンと米国主要都市が並び、4位ロンドン、17位シンガポール、19位東京、23位台北がアジアのトップ3評価になっています。
この分析では、「都市指標」では『「ビジネス活動」「人的資源」「情報流通」「文化的経験」「政治的関与」の5つの観点から総合的に評価』、「都市展望」では『「個人の幸福度」「経済」「イノベーション(革新性)」「ガバナンス(意志決定と行動)」の4つの観点から将来的有望性を評価』するものとしています。
○ 自殺率ランキング
「幸福度」の裏返しと言えるかも知れませんが、世界保健機関(WHO)が、2012年の「自殺率」を発表しています(注7)。人口10万人あたりの自殺者数、年齢構成調整済み自殺者率の2つの数値を挙げています。後者(年齢調整済み)の数値では、中米ガイアナ(44.2)を筆頭に、2位の韓国(28.9)、3位スリランカ(28.8)以降、日本は17位(18.5)と、いわゆるG8の中ではロシア(14位、19.5)に続く高さです。
厚生労働省(注8)によれば、平成27年中における自殺者の総数は24,025人で、前年比5.5%減、うち男性が69.4%を占めたそうです。平成15年の34,427人をピークに減少を辿り、18年ぶりに2万5千人を下回ったのは朗報と言えるかもしれませんが、先進国の中で最も高い部類に属すること、しかも20-30歳代の死因第1位が自殺である(注9)ことを思うと、上記「幸福度」ランキングでの評価を上げることも合わせて、もっと努力しなければならないということでしょう。
○ ランキングづけの難しさ
改めて冒頭の問題意識に戻ると、素データによるランキングは別として、複数の指標を総合化してランク付けをする場合、指標同士をいかに統合化するか、すなわち(単純に言えば)「重みづけ」が最重要の鍵を握ります。
たとえば、人命リスクを伴う社会経済活動に関して、(多くは貨幣価値で定量化される)経済指標と、リスクに晒される人命の価値をどのように合算するかは、倫理さえもが絡む切実な問題であり、一研究者には軽々に扱えないほどに難しいものです。
繰り返しになりますが、ランキングの背後にはそのような根源的な難しさや限界があることを前提に、必要以上に深刻に受け取らず、読み取るべき情報のみを選び出すことを心がけたいと思います。