社会経済研究所

社会経済研究所 コラム

2016年5月30日

メルマガの配信開始にあたって

社会経済研究所長  長野 浩司

このたび、社会経済研究所のメールマガジンの配信を開始することにしました。
私どもの研究活動の最新の成果や、日頃の研究の現場での息吹や思いなどをお届けできればと考えております。よろしくお見知りおきをお願い申し上げます。

5/17に、東京大手町・日経ホールにて、研究報告会2016「変容する電気事業の経営課題と選択肢」を開催いたしました。

既に電気新聞様(*)等にて報道戴いていますが、電力システム改革等の事業環境変化を受けて、電気事業の経営戦略のイノベーションをいかに考えるべきか、またその分析を通じて、当所の社会科学研究部門の使命は何処にあるか、についてご報告を申し上げました。

改めまして、多数の方にご来場賜りましたこと、熱心な質疑を頂戴したことに、心より御礼を申し上げます。

(*)2016年5月18日付2面「電中研 制度リスク巡り解説」、2016年5月20日付1面「焦点」

さて、電力産業に連なる一研究部門長としては、電気事業に関連する書籍こそを熟読すべきと思いつつ、いろいろ畑違いまで含めて手を伸ばして乱読しています。

最近読んだ中では、各紙誌の書評等でも取り上げられ、電気新聞5/17付1面「焦点」でも(同書で引用された「ダンバー数」について)引用された、ジリアン・テット著「サイロ・エフェクト」(文藝春秋刊)が出色でした。

副題「高度専門化社会の罠」に示されるとおり、組織や人間の集合体が専門化・巨大化すると、「サイロ化」すなわち日本で言うところの「タコつぼ化」現象が起き、チャンスを見過ごしたりリスクを読み誤ったりする、ということが、詳細な取材とインタビューで明かされて行きます。

日本人読者としては、やはり第2章に描かれるソニーの失敗は悲しく残念なことに映ります。経済を旗印とする研究部門に身を置く者としては、第4章で英米の高名な経済学者がなぜ世界的な信用危機を予見できなかったのかの理由が、経済学者の「部族」が、旧来のメインプレイヤー(銀行など)とその(伝統的に行儀の良い)振る舞いを対象とする「定量的モデル分析万能主義」などのサイロに陥り、視野狭窄を起こした結果、新たに勃興したプレイヤーであるシャドーバンクの存在と影響力を完全に見過ごしていたことにあるとの指摘には、考えさせられるものがあります。

サイロ化を未然に防止するにはどうすべきだったか。元イングランド銀行副総裁のタッカー氏の言う「心の持ち方」すなわち「好奇心と他者の言葉に耳を傾ける寛容さ」によって、サイロに風穴を開け、サイロとサイロの間の意思疎通を図る。

これは、私ども社会経済研究所が持ち続けるべき姿勢であり、かつ電中研の中で負うべき使命に他ならないと考えます。サイロを破壊した成功例で決定的な役割を果たした、ニューヨーク市役所の「スカンクたち」や、フェイスブック社内で様々な社会実験を企てる異才たちのような役目をも担っていきたいと思います。

思えば、経済に限らず科学技術研究全般においても、個別プロジェクトあるいは分野間の競争は、相互の意識を高め、各々の効率性を向上させる一方で、部門間の垣根を高くして情報共有や意志疎通を阻害する、すなわちサイロ化につながる恐れとも裏腹の関係にあります。

電中研全体の研究活動のサイロ化を防ぐ、あるいはサイロを破壊することは、組織の存亡をも左右する重要な鍵であり、これも電中研の本流である技術研究に対する「インサイダー兼アウトサイダーの視点」(同書)を持つ社経研が果たすべき役割は大きい、と思った次第です。

今年は観測史上最も暑い年になる可能性があるそうです。皆様くれぐれもご自愛戴き、本メルマガを一服の清涼剤ともして戴ければ幸いです。末永くお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。

サイロ・エフェクト

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