一般財団法人電力中央研究所(理事長:各務正博、本部:東京都千代田区)は、2018年度の事業計画および収支予算を取りまとめた「Annual Plan 2018」を3月16日開催の同所評議員会に付議し、承認を受けました。
<2018年度事業計画・収支予算の概要>
電気事業を取り巻く環境は依然大きな変化の過程にあります。電力システム改革では新たな電力取引市場の設計が進められ、またデジタル技術の進展や脱炭素社会への動きは電力の供給・利用のパラダイムにも影響を与えつつあります。このような変化の中、電気事業者は顧客への新たな価値提供に向け、多様な戦略を展開しています。
一方、堅固かつ柔軟な電力システムは社会のライフラインとして今後も必要であり、電気事業が電力システムの社会的な役割を維持しつつ、変革を成し遂げていくには、科学的知見に基づく確かな技術が不可欠です。
こうした状況に対し、これまでも「原子力リスク研究センター」による原子力発電の安全性向上への支援や、「エネルギーイノベーション創発センター」での電力需給協調の高度化や電気利用の新たな価値創出などに先見的に取り組んできました。
「技術で支える」という不変の使命の下、電気事業が直面する課題の解決に向けた研究成果の確実な創出・提供、エネルギー供給・利用の変革を先導する研究の展開、ならびに技術基盤の継続的発展により、確かな価値を生み出す研究機関として、電気事業と社会に貢献していくことを念頭に、2018年度の事業計画・収支予算を取りまとめました。
1. 事業運営 (添付の「Annual Plan 2018」の4〜5ページをご参照下さい)
電気事業を取り巻く環境が大きく変化するなか、将来にわたって研究開発を通じて社会に貢献し続けるため、次の3点に重点を置いて事業を運営します。
※重点を置く項目と取り組むアクション
- 電気事業・社会の課題解決に貢献する研究成果の確実な創出・提供
- 電力各社の共通課題解決に貢献する研究開発と個別課題へのソリューションの提供
- 先駆的な研究による将来課題の解決や新たな価値提供に繋がる成果の創出
- 国等からの受託研究を通じた電気事業の課題解決に資する技術・知見の獲得・拡充
- 創出した研究成果の適時的確な提供と国内外への発信
- 変革を先導する研究戦略の展開
- エネルギーの生産・流通・利用の全体最適化に向けた研究開発の深化
- 電気事業におけるデジタルトランスフォーメーションを支援する新たな価値の提案
- 原子力分野で培ってきたリスクベース技術体系の他の発電分野・電力流通分野への拡大
- ニーズを的確に反映した研究開発ロードマップの策定・更新と総合力の発揮による変革の先導
- 基盤研究力の強化・発展
- 高度な専門性と電気事業等の現場に対する深い理解を合わせ持つ研究者の育成
- 多面的な検討により厳選した大型研究設備の導入・更新
- 国内外の高い技術水準を有する機関との共同研究やアライアンスの積極的な推進
2.研究計画 (同添付の6〜21ページをご参照下さい)
電気事業の大きな変化の方向性を見定め、電力設備の安全性向上や合理的な保守・運用に関する研究、ならびに先端技術を駆使したエネルギー供給・利用に新たな価値を生み出す研究に取り組みます。
2018年度に取り組む各研究分野の主な研究計画を以下にご紹介します。
- 原子力事業における自主的・継続的な安全性向上に向けたリスク情報の活用支援、ならびに種々のハザードを考慮した確率論的リスク評価技術の高度化
- ヘリカルX線CTスキャナ(2018年度更新)等を用いた断層活動性評価手法の精緻化
- 収差補正透過型電子顕微鏡(2018年度導入)を活用した監視試験片等のミクロ組織観察による原子炉圧力容器の中性子照射脆化予測精度の向上
- PWR二次冷却水系における脱酸素剤の代替候補薬品の特性把握による水化学管理手法の改善
- 環境負荷の低減に資する新しい発電技術の早期確立に向けたCO2回収型高効率IGCC(石炭ガス化複合発電)および次世代ガス化システムの開発推進
- 微粉炭火力のアンシラリーサービスへの活用に向けた機器調整運用方法の改善方策の提案および調整力市場に適用可能なベンチマーク指標等を導入した性能評価手法の開発
- 各配管固有の材料特性を考慮した高クロム鋼配管寿命評価法ならびにボイラ等低合金鋼経年材および補修溶接部寿命評価法の開発
- 火力給水処理試験設備(2017年度導入)を用いた火力プラントの水・蒸気系の腐食挙動の解明
- アーチダムの耐震性能照査マニュアルの整備ならびにゲートピアの耐震性能評価法の構築
- 合理的な設備改修と保全コスト低減に向けた土砂等による水車羽根等の摩耗・損傷予測評価手法および流木対策に活用可能な縮小水理模型実験法の開発
- 被災設備の復旧支援に向けたドローンを活用した導水路の無人点検技術の開発
- 再生可能エネルギーの大量導入の実現に向けた基幹系統セキュリティ評価技術および安定化制御技術の開発、ならびに配電系統運用への影響評価と対策に必要な技術の開発
- 石炭火力での混焼利用拡大に向けた海外産バイオマス改質燃料の混焼特性の解明とライフサイクルコストの評価
- 電力機器監視制御システムへのサイバー攻撃に対する予防措置の検討および事象発生時の対策評価に向けたセキュリティ検証環境の整備
- 一般送配電事業者の系統運用システム間における共通情報モデル(CIM)に基づくデータ連携の適用に向けた調査
- 東京スカイツリーへの落雷による雷撃電流とそれに伴う電磁界の同時計測結果を活用した新型落雷位置標定システムの開発
- 瞬時値解析作業の効率化に向けた電力系統瞬時値解析プログラムXTAPの高機能化
- 各種センサから得られるエネルギー関連データと当所所有のエネルギー利用状況の推定・分析・活用技術とを連携させるICTプラットフォームの構築
- ブロックチェーンを活用した新たな顧客サービスの提案に向けた技術面での動向・課題の抽出および各種調査の実施
- 便益(疲労軽減、知的生産性・健康・温熱快適性の向上等)を損なうことなく、消費エネルギーを削減する様々な手法の考案・提供
- わが国の地球温暖化対策に向けた、政策・技術・科学に関する文献等の整理・分析に基づく適切な目標と戦略のあり方の発信
- CCSの国内外における技術開発や実証プロジェクト動向の調査・分析、ならびに導入時の技術・制度等に係わるリスクの評価
- 発電所の効率的な環境アセスメント実現に向けた各種の3次元モデルおよび評価手法の構築
- 電力システム改革により創設される新市場の制度設計に関して、エネルギー政策との整合に必要な留意点の抽出、および発生が懸念される課題への対応策の提示
- 原子力発電設備のリプレース・新増設・廃炉を考慮した中長期における複数のシナリオ分析および実体経済への定量的な影響の提示
- 発電設備等の資産価値を燃料・卸電力トレーディングの最適化を通じて効果的に引き出すための方策の提示
- クラウド・ロボティクスを活用した効率的な設備巡視の実現に向けた、実験環境の構築および設備劣化診断用のAIやロボット運用の予測・最適化技術の開発
- 需給全体のエネルギー効率向上と経済性の両立を実現する電力需給マネジメント技術の構築
クローズアップ(当所「材料研究」の紹介)
電気事業では極めて多くの設備や機器、装置が用いられ、電力の安定供給はそれらを構成する材料の健全性により支えられています。そして、電力供給における経済性と信頼性の両立が一層強く求められるなか、個々の材料の余寿命を正確に把握すること、さらには新材料の創出によるイノベーションが益々重要となります。ここでは、材料の作製・合成や分析を通じてその微視的な「なりたち」を知り、それを通じて設備等の巨視的「ふるまい」を解くことを基本姿勢に取り組む当所の「材料研究」を紹介しています。
- 原子力プラントの安定的な継続利用に資する照射脆化評価手法の高度化
- 火力プラント運用における安全性・経済性の両立を実現する配管毎の寿命評価法
- 放射性廃棄物処分の信頼性向上に資するベントナイトの高精度状態把握
- エネルギー効率の向上に資するSiCパワー半導体の長期信頼性の確保
- 電気事業における各種リチウムイオン電池の活用を支える劣化評価技術の確立
- 電力設備の運用保守の合理化に資するエナジーハーベスティング素子等の開発
3.組織運営 (同添付の24〜25ページをご参照下さい)
事業基盤のさらなる強靭化を目指して、研究力向上および業務の合理化・高度化に向けた取り組みを推進します。
- 自然・環境科学分野の知的融合の場とする新本館の設計および建設に向けた整備工事等、我孫子地区の拠点整備の開始
- 基幹業務システム更新による迅速かつ的確な意思決定の基盤となる経営情報の収集・分析プロセスの確立、ならびに業務プロセス再構築による労働生産性の向上
- 専門性と総合力の発揮を目指した研究系職員の獲得、ならびに研究支援機能の強化を目指した事務・管理系職員の育成
- マスメディアやWeb・ソーシャルメディアを活用した研究者や研究成果の積極的な表出、ならびに報告会や広報誌を通じたタイムリーな情報発信
4.収支予算 (同添付の26〜27ページをご参照下さい)
以上の事業計画に基づき、以下のとおり予算を編成しました。
経常収益:30,224百万円、経常費用:30,894百万円、当期経常減少額:670百万円
2018年度事業計画・収支予算の詳細は
添付の「Annual Plan 2018」をご参照下さい
以 上
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※本件は、エネルギー記者会で資料配布しております。