地熱発電の導入拡大に向けて、安定的な操業による暦日利用率の向上は、発電所の運営において重要な課題である。地熱発電は出力変動の少ない安定的な電源と言われることが多いが、実際には設備トラブルによる発電機会の損失も少なくない。最終回となる第3回では地熱発電所にスマート保安の考え方を適用して、監視・解析の省力化と早期異常検知による暦日利用率向上に貢献するソフトウェア「GeoShink」について紹介する。
省力化へ状態監視支援ソフト/設備の異常予兆、即時検知
地熱発電では、地下からの地熱流体、大気や河川水を用いて発電する。つまり、私たちの地球をいわば天然のボイラーや冷却器として利用している。ゆえに、地球環境の時々刻々の変化に強く影響されるため、人の手で安定した発電を継続させるには、環境変化の中に埋もれた“設備トラブルによる異常の予兆”をいち早く見つけることが重要となる。しかしながら、特に1千キロワット未満の小規模地熱発電では、人材、コスト等の面から膨大なデータの解析・分析に十分なリソースを充てることが難しく、設備トラブルの発見・対策の遅れから発電停止時間が長期化する傾向にあり、大規模な発電所と比較して暦日利用率が低いことが課題となっている。
解析アプリと連携
そこで電中研では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託事業において、小規模地熱発電事業の運転管理とスマート保安を支援するソフトウェア「GeoShink(ジオシンク)」(商標登録済み)を開発した。
「GeoShink」は、IoT技術を活用した遠隔監視機器を現場計器付近に設置することでバイナリー発電設備を一元的に状態監視し、スマート保安を支援するソフトウェアである。電中研が開発した熱効率解析アプリケーション「EnergyWin(エナジーウィン)」(同)と連携させ、計測した運転データから地熱発電設備全体の熱物質収支解析およびAI技術による分析を逐次実施して、各機器の性能低下や異常の予兆をリアルタイムに検知する。
暦日利用率を向上
「GeoShink」は、設備状態の解析にかかる労力を大幅に軽減できるだけでなく、井戸や大気条件の影響を加味した上で機器や配管単位で対象設備の健全性を診断することができる。そのため、発電所の効率的な運転管理が可能となることから、省力化に加えて暦日利用率の向上すなわち事業収益の向上が期待できる。これまで小規模地熱バイナリー発電所2地点を対象にNEDO事業において実証試験を実施し、事業者が開放検査などによって異変に気づくよりも早期に発電機出力の異常低下や蒸発器の性能低下などを検知し、補修時期や箇所の適正化によって歴日利用率が10%以上改善し得ることを確認している。「GeoShink」は、地熱発電設備のみならず、バイナリー発電方式を採用しているバイオマス発電、廃熱発電、温泉(熱)利用事業などにも適用が可能である。
今後、電中研は、発電事業者と協力して「GeoShink」の機能向上を進めていく方針である。ユーザーとの対話による操作性の改善と実運用データを用いた異常検知アルゴリズムの高度化を通して、規模・発電方式によらず様々な発電事業におけるスマート保安の実現に向けた取り組みを継続していく。
<用語解説>
暦日利用率:発電設備の年間の最大発電電力量に対する実際の電力量の割合。(発電電力量/(認可出力×暦日時間数))
EnergyWin:電中研が開発した原子力/火力/地熱発電設備向けの熱効率解析ソフトウェア。電気事業への貢献などが認められ、第66回(令和3年度)澁澤賞を受賞。
電気新聞 2024年6月3日掲載
電気新聞ウェブサイト 2024年6月28日掲載