レーザーなどの光エネルギーを遠隔地で電力として用いる光給電は、近年レーザーの高出力化と受光素子の光電気変換の高効率化が進んだことで、供給可能な電力が増加しつつあり、様々な分野から実用化が期待され始めている。本連載では、3回にわたり光給電のシステム概要や特徴を紹介し、適用領域などを整理するとともに、期待と、課題や将来展望を概説する。光給電は電気絶縁が可能な電源として利用できるため、高電圧設備への適用も期待できる。
非接触給電を長距離でも実現/変換効率、発熱対策など課題
私たちの身の回りには充電池を用いた機器が次々と登場し、利用時に電源ケーブルを用いない利用スタイルが広がりつつある。さらにその次の段階として、充電時のケーブル接続すら不要にする非接触給電の利用が普及しつつある。無線給電や非接触給電としては、高周波の磁界、電界、電波を用いた技術が一般的であるが、本連載では新しい技術として、光を用いて電力伝送を行う光給電を紹介する。
実用段階へ見通し
光給電の提案は1970年頃にさかのぼるが、近年のレーザーの高出力化と受光素子の高効率化により、実用レベルの電力供給の見通しが立ち始めている。光給電は図1に示すように、レーザーなどの光源と発電を行う受光素子を利用するシンプルな構成である。光給電には光を自由空間中に伝搬させる「光無線給電」と、光ファイバー中に閉じ込めて送る「光ファイバー給電」がある。
「光無線給電」では、エネルギーを拡散させず細いビームで数百メートルを超えるような長距離の空間伝送が可能である。「光ファイバー給電」は10キロメートル程度の光ファイバー伝送も視野に入る。高周波を用いた無線給電の伝送距離が数メートル程度であることと比較すると、光給電の長距離伝送は特筆すべき技術であり、光給電を用いることで、充電池が原理的に不要なモバイル機器の実現すら期待される。
ここで、高周波を用いた無線給電と光給電を比較した際の特徴を表1に整理する。
光給電の長所に関しては、(1)細いビームや低損失な光ファイバーを用いることで長距離での利用が可能であること(2)アンテナやコイルに比べ小型の光源や受光素子が利用できること(3)高周波を用いないため電磁雑音を与えにくく、金属の電線を用いないので電磁誘導も受けにくいためEMC(電磁両立性)に優れていること――などが挙げられる。
短所としては、(1)光源と受光素子を合わせた変換効率は当面50%程度が上限であること(2)高出力のレーザーを利用するため眼への安全性確保が必要なこと(3)高出力の光を用いる際の受光箇所の発熱対策が必要なこと――などが挙げられる。
光無線給電を移動する機器に適用する場合には、給電対象の検出やレーザービームの方向制御、モニタリングや制御の通信、レーザーの緊急停止等の安全対策、高信頼化など多様な周辺技術が必要となるが、近年の画像処理や人工知能などはその実現の追い風となっており、課題解決のための多様な研究が国内外で進められている。
金属電線から解放
光給電によるドローンの飛行実験では、蓄電池残量を気にせず長時間の滞空ができることが示されている。変換効率などの短所があったとしてもそれを超える便益を光給電が提供できるアプリケーションが多くあると考えられる。
光給電は電気の利用を金属の電線から解放し、新しい電気利用を予感させてくれる技術である。
<用語解説>
EMC:Electromagnetic Compatibilityの略で「電磁両立性」と呼ばれる。機器が電磁妨害(電磁干渉、電磁障害)を与えないことと、他の機器からの電磁雑音に対して耐性を持つ性質を備えていることをいう。
電気新聞 2023年12月18日掲載
電気新聞ウェブサイト 2024年2月2日掲載