次世代電力ネットワークにおいて、分散型エネルギー資源(DER)の活用が期待されている。このうち、電気自動車(EV)は、今後の普及拡大が見込まれており、ユーザーの利便性を損なわない範囲で充電や放電のタイミングを調整できれば、DERとしての活用が期待できる。わが国では、経済産業省がEVグリッドワーキンググループ(2023年5月から)を立ち上げ、EVと電力システムの統合についての議論・検討が始まっている。
利便損なわずに充放電を制御/逆潮流の抑制も可能に
DERで需給調整
カーボンニュートラルの実現に向けて、次世代電力ネットワークでは、変動電源である再生可能エネルギー(再エネ)の比率が高まっていく。このため、電力系統では、従来は大規模な火力発電が担っていた需給調整の一部を需要側のDERで行うことが考えられている。また、配電系統においては、混雑緩和や電圧調整にDERのフレキシビリティーを活用することが考えられている。
DERを制御する方法としては、遠隔からの指令値による直接的な制御方法(VPP=仮想発電所=など)と、デマンドレスポンス(DR)による間接的な制御方法がある。需要側のDERは複数の用途に利用されるものが多いが、DRに用いると、需要家の意思で参加の有無を決定でき、需要家の便益を損なわない範囲で活用できると考えられる。
EVは、蓄電池を搭載しているため、ユーザーの車両としての利便性を損なわない範囲で充電や放電を制御することにより、DERとしての活用が期待できる。EVの制御には、充電のみを制御する方法(V1G)と、充電に加えて放電も制御する方法(V2G)の二通りがある(図1)。
電力中央研究所が参画したVPP実証では、PVの発電量が大きい昼間を対象に、EVをVPPとして活用する場合のポテンシャルをシミュレーション評価した。この結果、EVの充電時間をシフトさせると昼間の需要創出が可能であること、V2Gを用いて事前に放電すると、一日中走行しないEVも充電での需要創出の制御対象にもできる。充電のみを制御する場合よりも、放電を組み合わせることで需要創出量が大きく向上することが確認された。
EVのDRを活用して充電需要をシフトさせる実証も行われている(図2)。実証の結果、卸電力市場価格が安価な時間帯の電気料金を割引することにより、ある程度のEV充電需要を割引時間帯に誘導できることが確認されている。PV発電量が大きい日には、昼間にEV充電が誘導され、PVからの逆潮流を抑制できること、逆潮流による配電線の電圧上昇を抑制できる効果があることがシミュレーションで確認された。
一方で、不在等で応答できないEVがあるため誘導できる充電需要には限りがあること、市場価格が安価な時間帯とPV発電のピーク時間帯が必ずしも一致しない場合があることを考慮する必要がある。遠隔での制御も検討されている。
最新知見取り入れ
本連載では、再エネを主力電源とし、DERを活用する電力ネットワークを実現するための「市場設計」「送電」「配電」に関する取り組みを紹介してきた。電力ネットワークを取り巻く環境は近年急速に変化しており、今後も新たな課題が生じることが想定される。最新の知見を取り入れながら、引き続き次世代電力ネットワーク形成に向けた研究に取り組んでいく。
<用語解説>
VPP:通信により多数のDERを組み合わせて、仮想的な一つの発電所として統合運用すること。Virtual Power Plant
DR:電気料金の変化により、電力需要の変化を誘導すること。Demand Response
V2G:EVへの充電に加えて、EVから電力系統への放電も行うこと。Vehicle to Grid
電気新聞 2023年11月13日掲載
電気新聞ウェブサイト 2023年12月22日掲載