木を燃やせば、熱が得られる。しかし、現代社会においては熱よりも電気の需要の方が多い。このため木を燃やして水を沸かし、蒸気を作って蒸気タービンを回し電気を作る。この仕組みは大型のバイオマス発電所で採用されている。しかし小型ではなかなか難しい。図1のように木にコンセントを挿せば電気が発生するという漫画のような仕組みはないものか?さすがにそのようなものはないが、近い技術ならある。その技術について今回紹介する。
DBFC実用化に期待/余剰ガスの活用で高効率化も
循環型社会の構築を目指して、近年、バイオマス発電所が多く建設されている。その一方で、輸送コストの観点から未利用のまま放置されているバイオマスが多く存在する。私の散歩経路にある雑木林にも倒れたまま放置され、そのまま腐るのだろうと思われる木が散在している。これらの未利用バイオマスを有効利用するためには、輸送コストが障壁とならないような小型かつ低コストで高効率に発電できるシステムが望まれる。
状況を変える技術
残念ながら、現時点ではそのようなシステムは商品化されていないが、この状況を変える技術としてダイレクトバイオマス燃料電池(Direct Biomass Fuel Cells=DBFC)がある(図2)。
このDBFCは、燃料電池の反応場に直接バイオマス燃料(炭化物燃料を含む)を投入し発電する装置であり、バイオマスの化学エネルギー(固体炭素、揮発成分)を電気化学的に直接電気エネルギーへと変換することができる。
このため、既存のバイオマス発電技術に適用される燃焼用ボイラーやガス化炉は必要とせず、シンプルな機器構成になることから、小型化が期待できる。
また、DBFCの発電効率については詳細な検討が必要であるが、固体炭素分だけでの反応で発電効率26%が得られることを試算している。 DBFCからの余剰ガスを固体酸化物形燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)またはガスエンジン等での発電に活用するシステムを組むことで、さらに高い効率が得られると期待できる。
ここでDBFCの発電の仕組みを簡単に述べる。図2に示すように、燃料電池の入った反応容器があり、その中にバイオマスを投入する。 この燃料電池は円筒状で、外側が燃料極でバイオマスと接する。内側は空気極になっており、バイオマスに接することはない。空気極側では酸化剤ガス(酸素、二酸化炭素)を取り込み、イオン(炭酸イオン)に変換する。 その炭酸イオンは電解質を移動し、燃料極でバイオマスを構成する炭素や水素と電気化学的に反応する。この電気化学反応により電気が生まれる。
反応容器内の温度は700度程度であり、投入されたバイオマスはその温度により揮発性ガスを伴いながら炭化される。 この炭化物はDBFCの燃料であるが、燃料として利用せずに反応容器から取り出し、バイオ炭として農地に散布または地中に埋設すれば、植物が吸収したCO₂を固定化して環境から隔離することになり、カーボンネガティブエミッションにもつながる。
山間地などで活用
適用例としては、山間部やダムなどに1~2キロワットのDBFCを設置し、未利用バイオマス10~25キログラム/日程度(乾燥重量)を利用することを想定している。
この程度のバイオマス量であれば、輸送に関する問題がかなり小さくなると考えられる。また、近年、農業電化(農業ハウス内の空調、電照栽培、害虫防除)も進みつつあることから、
有用な電源として期待できる。
<用語解説>
未利用バイオマス:間伐材、もみ殻、剪定材、流木など。
燃料電池:燃料電池の構造は燃料極、電解質、空気極の三層で構成され、外部から燃料や酸化剤が供給される。
カーボンネガティブエミッション:負のCO2排出で、大気中CO2を削減する性質を意味する。
電気新聞 2023年7月31日掲載
電気新聞ウェブサイト 2023年9月22日掲載