電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞テクノロジー&トレンド

電気新聞テクノロジー&トレンド
循環型社会のための未利用バイオマスの活用 

日本政府が掲げる2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた施策の中で、バイオマスは、エネルギー分野を支える再生可能な資源の一つとして重要な役割を担う。今回から全3回にわたり、電力中央研究所のバイオマス活用に関する研究および取り組みを紹介する。第1回では、炭素隔離について触れたい。近年、炭化処理したバイオマス(バイオ炭)の土壌等への施用による大気中二酸化炭素(CO2)の削減(ネガティブエミッション)が提案されている。

第1回 炭素隔離

バイオ炭使いCO2を固定化/土壌へ施用 農地改良にも効果

図

樹木の再生が前提
バイオマスは、動植物に由来する有機性資源(石油や石炭などの化石資源を除く)であり、代表的な木質バイオマスは、建築物や家具の材料、薪や木炭など燃料として古くから利用されている身近な資源である。また、森林によるCO2吸収を通じた再生産が可能であることから、カーボンニュートラルな資源とされている。

図1は、バイオマスのカーボンニュートラル(大気中のCO2を増やさない)という特徴を、バイオマスの発電利用を例に説明したものである。ここで重要なのは、伐採した樹木を再生する部分であり、伐採して利用するだけではカーボンニュートラルにはならない。また、樹木の伐採には林業機械、伐採した樹木の搬送にはトラックなどの輸送機械、樹木の燃料化には加工機械が使用される。現状、これらの機械では化石燃料が消費されることから、バイオマスは厳密に言うとカーボンニュートラルではない。しかし、バイオマスに含まれる炭素が大気中のCO2由来であることは間違いなく、その利用方法を誤らない限り、大気中CO2の増加抑制には有効である。

適切な物質利用およびリサイクル、化石燃料の消費抑制など、環境負荷の低減を目指す循環型社会の構築に向け、再生可能なバイオマスは有望な資源のひとつである。前述のとおり、バイオマスの適切な燃料利用は、大気中CO2の抑制に有効である。さらに、これをもう一歩進めた取り組みとして、バイオマスによる「ネガティブエミッション」がある。

例えば、木質バイオマスで椅子を作り、これを長期にわたって使用すれば、椅子の材料に含まれる炭素は大気中に戻ることなく固定化され、大気中CO2は減少することとなる。しかし、一般にバイオマスは、水分を多く含み、腐敗しやすく、そのまま放置した場合、CO2よりも温暖化係数の高いメタンガス(CH4)を放出することもある。

図

品質確保が不要に
そこで、バイオマスを炭化処理することにより腐敗を防止し、得られたバイオ炭を土壌などに施用することで炭素隔離を図る技術が注目されている。図2にバイオ炭による炭素隔離のイメージを示した。また、バイオ炭を農地に施用した場合、土壌の透水性、保水性、通気性の改善、酸性土壌のpH調整といった効果が期待され、作物の栽培にもメリットをもたらす。通常、バイオ炭の製造には炭化機が使用されるが、バイオマスを燃料とするガス化発電技術を応用することで、電気と熱とバイオ炭を併産し、熱電供給とともにバイオ炭での炭素隔離を実施する事業も提案されている。

バイオ炭による炭素隔離は、バイオマスに燃料としての品質を求めないことから、これまで未利用であったバイオマスの有効活用方法としても注目される。

<用語解説>
循環型社会:物質の効率的な利用やリサイクルを推進し、天然資源の消費を抑制することで、環境への負荷を低減する社会

ネガティブエミッション:負のCO2排出。大気中CO2を削減する性質を意味する。

バイオマスに含まれる炭素量:一般的な木質バイオマス100グラムに含まれる炭素は約50グラムであり、CO2換算で約180グラムとなる。バイオマスを燃料利用するまでに、この炭素量を超える化石燃料由来のCO2を排出するなら、それは誤った利用方法となる。

著者

大高 円/おおたか まろむ
略歴 電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
1994年入所。専門は、石炭ガス化複合発電(IGCC)、バイオマスガス化発電、バイオマス炭化燃料化に関わる研究開発。

電気新聞 2023年7月24日掲載
電気新聞ウェブサイト 2023年9月15日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry