エンジン車は夏にエンジンの出力を使って冷房、冬は排熱で暖房を賄うので、夏に燃費が悪くなると言われてきた。一方、エンジンを持たないEVは、冬にバッテリーの電力で暖房するため、冬の航続距離の低下が懸念されている。航続距離を伸ばすため、冬の寒さを我慢して暖房を切って運転するドライバーが出てくるかもしれない。よって普及促進のためには大容量バッテリーの開発と同時に、省電力な暖房システムの開発が必要である。
特に寒冷地で課題
寒い時期の車内にはドライバーの快適性のため暖房が必須であり、EVにはエンジンがないため、暖房にはバッテリーの電力を使用せざるを得ない。実際、EVのエネルギー消費の内訳は、走行の次に暖房が大きく、暖房の電力使用はEVの航続距離に大きく影響する。特に、寒冷地では走行エネルギーと同等の電力を消費する場合もあり、暖房による航続距離の大幅な低下が問題となっていた。例えば、5kWの暖房負荷に対して、加熱効率1の電気ヒーターを使った場合、消費電力は5kW、4時間連続暖房の電力使用量は20kWhとなり、40kWhの電池容量を有するEVでも、航続距離は半減してしまう。一方、ヒートポンプ(HP)方式ならば外気採熱ができるため、使用電力の2~3倍の暖房効果が得られる。つまり、同じ暖房負荷に対して、HPの消費電力はヒーターの1/2~1/3まで減らせる。そのため高効率に熱を創出できるHPは省電力な暖房方式として、今では多くのEVに採用されている。さらに、1つのHPシステムで冷房と暖房両方の用途に使える利点もある。ただし、車室の窓ガラス防曇(くもり止め)のための外気導入による暖房負荷の増加や、外気採熱用熱交換器の除霜などへの対応のために、電力使用量が増えてしまう課題が残る。
そこで当所は、従来の課題を克服するEV用の省電力な暖房システムとして、湿度コントロール技術を適用したヒートポンプ暖房システムを考案した(図1)。車室外の熱交換器で獲得した大気の熱を冷媒が受け取り、電動圧縮機で熱を作って加え、車室内の熱交換器に搬送し、車室内に熱を放出して暖める。この時、吸着剤を塗布した熱交換器で、事前に車室の空気を除湿しておけば、曇らない。HPの熱創出という特徴を生かしながら、内気循環で窓ガラスの曇りを防ぐことができるため、外気導入による暖房負荷の増加を回避して航続距離を確保できる。さらに、吸着剤の吸着熱を利用して高効率な除霜運転もできる。当所考案システムの暖房消費電力の試算結果は、電気ヒーターの1/4程度であり、従来HPに比べても約40%削減となる。航続距離は電気ヒーター暖房を利用した場合に比べて、従来HP暖房の場合で1.5倍、当所考案の湿度コントロールHP暖房の場合は1.7倍まで伸ばすことができる(図2)。
図1:当所が考案する「“湿度コントロールHP暖房”システム」
図2:暖房しながら走行できる距離の試算
EVの敷居下げる
本欄では、5週にわたり電中研のEV関連研究として、EV普及時の充放電電力と電力系統との相互影響、および非接触充電方式の研究開発動向、冬季の航続距離を伸ばすヒートポンプ技術を述べた。電中研では、人々のEV利用のハードルを下げる技術開発・便益評価を今後も手掛け、来るべきカーボンニュートラル時代の運輸分野の電化、ならびに電力系統への影響緩和に寄与し続けていく。
電気新聞 2021年11月15日掲載
電気新聞ウェブサイト 2022年2月4日掲載