CASE(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)と呼ばれる運輸部門での技術革新を進めるキーテクノロジーの一つに給電自動化に役立つ非接触給電がある。ただし、非接触給電を普及させるには、給電システムの互換性や、漏洩磁界の周辺電子機器との共存化、人体に対する防護ガイドラインの遵守など様々な課題の解決が必要である。本稿では、周辺電子機器との共存化に関する省令改正や国外の規格策定動向を解説する。また、漏洩磁界の低減技術として弊所で開発した非接触給電装置を紹介する。
許容値緩和も進む
我が国では、非接触給電と周辺の電子機器との共存化に関して検証を重ね、非接触給電の利用周波数や漏洩電磁界の許容値について定めた電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)の一部を改正する省令(平成28年総務省令第15号)を、世界に先駆けて発行した(2016年3月)。この省令で定めた、EV用非接触給電装置で許容される磁界強度の準尖頭値を図1に示す。利用周波数帯79~90kHzに対する許容値は68.4dB(uA/m)@10mである。なお、高調波成分に対する許容値は、第5高調波までの成分について、国際無線障害特別委員会(CISPR)の関連規格CISPR 11におけるクラスBの許容値から10dB緩和している。一方、国内のAMラジオ放送を保護するため、526.5kHz~1.6065MHzについては-2dB(uA/m)@10m以下に規制している。これに対し、欧州では今でも長波ラジオが利用されており、我が国のような許容値緩和が困難とされている。そのため、CISPRのB分科会ではCISPR 11の改訂を進めているが、欧州放送連合(European Broadcasting Union; EBU)などの強い反対で審議が遅延している。現在、審議項目のうち、試験方法については合意が得られており、規格改訂へ向けて着実に審議を進めている状況である。
図1 EV用非接触給電装置における磁界強度の許容値
部品追加せず実現
非接触給電の普及には、漏洩磁界の合理的な許容値緩和が求められる一方で、そもそもの漏洩磁界を低減する技術が必要である。漏洩磁界は、主に給電用コイルに流れる電流から生じる。よって、その電流の高調波成分を低減させる手段としてローパスフィルタの挿入が考えられるが、フィルタ部品の追加はコスト増と重量増を伴う。弊所ではこれらの部品を追加せずに、給電用コイル自身がローパスフィルタとして振る舞う非接触給電装置を開発した(図2)。開発した装置の出力は1kW程度と小さいものの、フィルタなしと比べ、漏洩磁界の高調波成分を6~9dB低減することに成功した。
非接触給電の普及には、システム間の互換性や利用者に対する安全性の確保などの課題も残されているが、国内外の関連技術委員会や分科会では、課題解決に向け精力的な議論が進められている。
図2 漏洩磁界を低減した非接触給電装置
(送電側と受電側のコイルをそれぞれ二分割することで、高調波電流を相殺させるフィルタを構成できる)
<用語解説>
省令改正:電波法施行規則の一部である昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号が、省令となる平成28年総務省令第15号の通り改正された。対象となる非接触給電装置は、400キロヘルツ帯電界結合型一般用非接触給電装置、6.7メガヘルツ帯磁界結合型一般用非接触給電装置、EV用非接触給電装置の3種類から成る。
CISPR11:現在の改訂6.2には、非接触給電装置から発生する漏えい電磁界の周波数について、試験方法や許容値の規定がない。ただし、当該装置は意図的に電磁界を放出するグループ2に分類されており、150キロヘルツ以上の周波数についてはクラス毎の許容値が規定されている。なお、クラスAを産業用途、クラスBを民生用途とする。
電気新聞 2021年11月8日掲載
電気新聞ウェブサイト 2022年1月28日掲載