電気自動車(EV)を電力需給調整に活用するV1G/V2Gの導入可能性を、ステークホルダーである系統側、EVユーザー側、VPP事業(アグリゲーター)側のそれぞれの視点から評価した。系統側のメリットやEVユーザーの受容性はあるが、現時点では、システムコストが高く、低速カテゴリの需給調整市場からの収入のみによるVPP事業の成立は難しい。自立的な事業成立には、システムコストの低減、制度設計による支援、事業者側の工夫が必要である。
V2G実証で評価
EVを電力需給調整に活用するV2G(ビークル・ツー・グリッド)は、再生可能エネルギーの出力変動を緩和する手段として期待されている。しかし、その導入可能性の評価は行われてこなかった。当所は、経済産業省・資源エネルギー庁補助事業である「九州V2G実証事業」(2018~20年度)に参画し、V1G/V2Gの導入可能性を、系統側、EVユーザー側、VPP事業(アグリゲーター)側のそれぞれの視点から評価した。V1Gは、EVへの充電のみを需給調整に活用する方策であり、V2Gは、EVへの充電に加えて、EVの蓄電池から電力系統への放電を、電力需給調整に活用する方策である。
初めに、系統側の評価として、九州全域の将来のEV普及台数を120万台と想定し、当所既開発のEV交通シミュレーター(EV-OLYENTOR)を用いて、個々のEVの走行や充電行動をシミュレーションすることで、九州全域のV1G/V2Gによる需要創出量を評価した。駐車中EVの充電器への接続確率を100%とした場合、軽負荷期の休日昼間において、V1Gでは最大37万キロワット、V2Gでは最大130万キロワットの需要創出ができることが分かった(図1)。V2Gによる事前放電を行い、PV余剰電力を活用する上げDRを行うことで昼間需要を創出でき、年間PV出力制御量(キロワット時)の37%を緩和できることが分かった(17年度需要実績とPV接続可能量817万キロワットを仮定)。
図1 九州全域におけるV2Gによる需要創出可能量(軽負荷期休日昼間の場合)
※系統制約がなければ、V2Gは最大277万キロワットの需要創出が可能であるが、火力には最低出力があり、V2Gによる夜間の事前放電量がこの火力下げ代制約に掛かると、翌日昼間の需要創出量が半減、最大130万キロワットとなる。
次に、EVユーザー側の評価として、全国のEV所有者664名を対象にV1G/V2Gの受容性に関するアンケート調査を行った。その結果、7~8割のEV所有者は対価次第でV1G/V2Gに協力可能とする一方で、電池劣化、EVの蓄電残量が減ること(電欠リスク)、駐車時間の拘束の3点を懸念していることが分かった。今後、V1G/V2Gを社会実装するにあたり、懸念事項を解消し受容される事業モデルを構築する必要がある。
市場収入のみ困難
最後に、アグリゲーター側の評価として、EV(V1G/V2G)のほかに、家庭用ヒートポンプ(HP)給湯機、家庭用蓄電池の計3種類の小規模リソースを取り上げ、海外の需給調整市場価格を仮定して、三次調整力②市場を対象にした事業性評価を行った。想定条件下では、どのリソースについても事業価値は正ではなく、現時点ではシステムコストが高いため、市場からの収入のみによるVPP事業の成立は難しいことが分かった(図2)。リソース間で比べると、EV_・V2G(逆潮流OK)の事業価値が最も高く、次いで蓄電池(逆潮流OK)、HP給湯機の順で事業価値が高い。小規模リソースを活用するVPP事業を成立させるには、システムコストの低減、制度設計による支援、事業者側の工夫(エネマネなど他事業と合わせるなど)が必要である。
図2 小規模リソースアグリゲーションの事業価値比較
V1G/V2Gは技術的には問題ない水準にあり、今後、経済的に見合うサービスの選択と事業モデルを検討する段階に入る。しかし、自立的な事業成立のため、引き続き制度面からの支援(電池からの逆潮流を認める、職場充電環境の整備など)が必要である。研究課題としては、配電系統への影響を事前評価し対策を検討することが必要である。
電気新聞 2021年11月1日掲載
電気新聞ウェブサイト 2022年1月21日掲載