本稿では確率論的地震動評価に関する米国のガイド(SSHACガイド)適用及び関連技術の検討状況について述べる。米国では早くから確率論的リスク評価が実施されてきた。原子力発電所の地震に対するリスク評価は、数千年~数万年に一度、あるいはさらに低頻度の地震を的確に評価する必要があり、自然事象特有の比較的大きな不確実さの評価に関して専門家活用が不可欠な分野である。米国の過去の検討事例で、個々の専門家判断の統合方法等の検討手順の違いが結果に相当程度影響することが課題として認識された。そこで開発されたのがSSHAC(Senior Seismic Hazard Analysis Committee)ガイドである。同ガイドでは、確率論的地震動評価の信頼性向上のために、専門家活用上の重要事項、留意点を含む全体の検討手順を体系化している。具体的には、検討に係る各専門家の役割の明確化や、ワークショップなどの開催時期や頻度等の検討手順、議論項目の明確化、全工程参加型のピアレビューの実施、全検討過程の文書化、公開等を定めている。同ガイドに基づく検討は米国はもとより、現在までにスイス、スペイン、南アフリカ、台湾等で実施されている。
地震PRAの高度化に向けて、原子力リスク研究センター(NRRC)は四国電力と協働で同社伊方発電所を対象として、国内ではじめて確率論的地震動評価へのSSHACガイド適用を試みた(伊方SSHACプロジェクト)。ガイドに基づき適切な検討体制、検討手順、検討内容を定めるとともに、特に国内で初めてのSSHACガイド適用検討であることから、米国を含む海外の既往検討に携わり経験豊富な海外の専門家を含む、国内外の有識者20名程度からなる恒常的な検討チームを設置した。さらに3回のワークショップではのべ52名の国内外の専門家を招き、専門的な議論・検討を実施した。検討は2016年の3月に開始し、客観的・科学的な質の高い議論に基づく信頼性の高い成果を得て2020年10月に完了し、2300頁にわたる報告書が四国電力のホームページ上で公開されている。今後は本検討の経験を生かし、より効率的な観点で他地点への展開をはかるべく計画を立案する予定である。
NRRCは前述した伊方SSHACプロジェクトの支援から始まり、現在、確率論的地震ハザード解析の高度化を目的とした研究を実施中である。例えば、対象地点の地震ハザード解析において地震動モデル(地震動予測式等)が複数設定される場合にモデルをより客観的に選択する手法について高度化を図っている。確率論的地震ハザード解析に係わる不確実さを最適化することは、その情報を入力とする地震PRAの説明性・信頼性の向上に必要不可欠のため、NRRCでは今後も引き続き検討を実施していく(次回第3回で詳述する)。
ワークショップでの議論の様子
電気新聞 2021年8月27日掲載