電力中央研究所

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NRRC研究紹介連載企画

地震PRAの高度化に向けて
第1回 総論

原子力リスク研究センター(NRRC)では設立以来、PRA(Probabilistic Risk Assessment:確率論的リスク評価)に関する研究開発を進めている。本寄稿では6回連載でNRRCが実施している地震PRA手法高度化に関する取り組みを紹介する。

地震PRAとは、対象地点で想定される地震(震源)規模・発生確率、その地震から来襲する地震動強さを評価した情報(ハザード)を用いて、原子力発電所施設を構成する構築物・機器の脆弱性(フラジリティ)を評価、上記二つの情報を用いて発電所システムが損傷する頻度を定量的に計算すると共に、システム全体の頑強性を分析・評価するものである。

PRAの基本的枠組みは1980年代に米国で開発され、その後、地震や洪水等、外的事象に対して適用範囲が拡大されてきた。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、米国では規制機関が必要と判断したプラント全てに対して地震PRA実施が要求され、既に完了している。我が国では地震PRAは許認可対象ではないが、安全性向上評価届出書において実施されており、電力会社、NRRC、メーカー等から成るNRRC地震PRA高度化サブワーキングにおいて議論を進めている。

NRRCでは地震PRAを構成する地震ハザード解析、地震フラジリティ解析、システム解析に係わる高度化・改良に関する研究を加速して実施しているが、加えて2019年度からBWRモデルプラントを用いて地震PRA手法の高度化検討を進めている。この高度化検討では①ハザード~フラジリティ~システム解析間の精度の不均衡(アンバランス)箇所の特定・分析、②ハザード評価、フラジリティ評価に関する技術的課題の解決、③新しい評価手法・解析手法を地震PRAに実装する方法(手順)の提示・例示を目的としている。

NRRCの地震PRAプロジェクトの進め方を図に示す。モデルプラントに対して、現行の評価・解析手法を用いて地震リスクの定量化を行う。各事故シーケンスが地震リスクへ寄与するシナリオやその割合を分析し、地震リスクに大きな影響を与える要因を特定する。次に、その要因に係わる構築物のフラジリティ評価を、高度化・改良した手法で実施する。その結果を用いてモデルプラントに対して再びリスク定量化を行い、その効果を分析する。この手順を繰り返すことで地震PRA手法自体の高度化を図る枠組みとなっている。本プロジェクトでは先ず、従来すべり安全率を指標として、閾値を超えると即炉心損傷に至ると保守的に設定されていた基礎地盤損傷による事故シナリオを、より現実的な応答に基づき評価した地盤のフラジリティ情報をシステム解析に入力して地震リスクへの影響を検討した。更に現在は機器・配管フラジリティ評価、地震ハザード評価に関するNRRCの最新研究成果を実装した検討を実施中である。

図

NRRC地震PRAプロジェクトの進め方

本連載では第2回~第3回で地震ハザード評価関連研究、第4回~第6回で土木・建築・機器・配管フラジリティ関連研究の最新状況を紹介する。

著者

中島 正人/なかじま まさと
電力中央研究所 原子力リスク研究センター 自然外部事象研究チーム 上席研究員

電気新聞 2021年8月26日掲載

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