
科学的に信頼できる成果を生み出す研究現場は、最新技術や蓄積された知見、熟練者の技能に支えられている。しかし、研究課題が高度化・複雑化する一方で人手不足が続き、新技術への挑戦や技能の継承が難しくなっている。
そこで広がっているのが、ロボットや自動化技術を使って研究作業を効率化し、手順や品質を標準化する取り組みだ。研究現場の一連の作業を機器やシステムに担わせる技術は「ラボラトリーオートメーション(ラボオートメーション)」と呼ばれる。
電力中央研究所(電中研)は、生命科学分野で環境要因が生体に及ぼすリスクを調べる工程を皮切りに、ラボオートメーションによる実験プロセスの自動化に取り組んでいる。
原子力発電所などで働く人にとって、放射線被ばくは重要な環境要因の一つだ。放射線は、がんにつながり得る細胞内のデオキシリボ核酸(DNA)損傷と変異を引き起こす可能性がある。影響は、浴びた総量の「線量」だけでなく、単位時間当たりの「線量率」にも左右される。同じ被ばく線量でも、低い線量率で時間をかけて浴びると変異頻度が小さくなり、これを「線量率効果」という。その解明には幅広い線量率のデータが必要だ。
ただ、線量率が低いほど影響は検出しにくく、ほかの環境要因との区別も難しくなる。このため、大量の試料を高い精度で解析する必要がある。
自動化実験では、さまざまなDNA損傷を与える多条件のサンプルをプログラムに従ってロボットが作成する。次に顕微鏡を用いて自動で画像解析し、得られたデータを数理モデルに当てはめて影響を予測する。予測結果を検証するために注目すべきサンプルを自動で抽出し、実際の分子メカニズムを解明する。多数の処理を同じ手順で進めるため、まれな変化も測定のバラつきと区別しやすい。
ラボオートメーションは生命科学にとどまらず、材料化学や製薬の分野でも重要な研究テーマになっている。用途に応じて、人のような形で作業するヒューマノイド型や、特定の工程に特化した専用システム型などがある。
近年は生成AIの普及や計算能力の向上を背景に、画像を認識する「ビジョンAI」や、現実空間で機器を制御する「フィジカルAI」を組み込む動きも加速している。
電中研も研究現場でのAI活用に向けた取り組みを始めている。AIの計算・判断能力とロボットなどの物理的な制御を連携させ、研究プロセスを自動化する技術を、研究現場を変革する手段と位置付けて開発を進めていく。
日刊工業新聞(2026年10月29日)掲載
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