
第7次エネルギー基本計画では、安全性の確保を大前提に、必要な規模の原子力を持続的に活用していく方針が示されている。原子力発電所を安全に運転するには、使用に伴う材料特性の変化などを考慮し、機器が十分な強度を保持し、構造健全性が確保されていることを継続的に確認する必要がある。
機器の健全性を確認するため、従来は材料強度や作用する力、想定する亀裂の大きさなどに安全側の値を設定し、機器が所定の基準を満たすかどうかを評価してきた。
これを補完するのが確率論的破壊力学(PFM)である。PFMでは、材料強度、作用する力、想定亀裂の大きさなどが確率的にバラつくものとし、設定した条件の下で機器の破損確率を算出する。各因子が破損確率に及ぼす影響を明らかにし、条件を変えた場合に破損確率がどのように変化するかを比較することができる。これにより、機器の健全性の確認に定量的な判断材料を加えることができる。
米国では、PFMによって、原子力発電所の主要機器である原子炉圧力容器の検査間隔や検査範囲を変更した場合の破損確率を評価し、その結果を定期検査の最適化に活用している。これにより、検査に要する作業の合理化が期待できる。また、配管などの機器にもPFMが活用されている。
一方、日本では解析コードや評価手順などの技術基盤の整備が進められているものの、具体的な活用事例はまだ限られている。
原子炉圧力容器と配管では、使用される材料や亀裂が進む仕組み、破損に至るまでの過程が異なる。電力中央研究所は、原子炉圧力容器用の「FERMAT」と配管用の「PEDESTRIAN」という二つのPFM解析コードを開発している。
FERMATは、中性子照射による材料特性の変化を考慮して、原子炉圧力容器の破損確率を評価する。条件の入力や結果の確認を画面上で行えるグラフィカル・ユーザー・インターフェースも備える。
PEDESTRIANは、力が繰り返し加わることや、腐食環境と力の作用が重なることによって生じる配管亀裂の進展を追跡し、亀裂が管厚を貫く確率や配管が破断する確率を評価する。
電力中央研究所は今後、新たな材料データや評価手法を解析コードに反映し、評価事例を蓄積して妥当性を検証していく予定である。こうした取り組みを、わが国におけるPFMの活用につなげていきたい。
日刊工業新聞(2026年9月17日)掲載
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