
再生可能エネルギーなど非従来型電源の導入拡大を背景に、電力分野でもデジタル変革(DX)が本格化している。AI(人工知能)を活用した需給予測や設備保全の高度化も進み、制御・運用システム間の安全な連携が一段と重要になっている。
その基盤となるのが、国際標準IEC 61850や共通情報モデル(CIM)である。一方、複数の送配電事業者、発電事業者、メーカーのシステムが接続される環境では、連携先の確認、不正アクセスやなりすましの防止、データ改ざん対策などが課題となる。
このため電力中央研究所(電中研)は、IEC 62351に基づくゼロトラスト型サイバーセキュリティーの研究を進めている。
IEC 62351は、電力システムの通信を保護する国際セキュリティー標準であり、暗号化、認証、アクセス制御、証明書管理、鍵管理などの実装方法を規定する。
ゼロトラストは、接続された機器、利用者、連携先システムを継続的に確認し、最小限の権限のみを付与する考え方である。事業者をまたぐ電力制御システムに適した概念であり、リアルタイム監視制御、保護、設定変更などでは、通信の信頼性とセキュリティーを同時に確保する必要がある。
もっとも、標準を採用するだけで安全かつ円滑な連携が実現するわけではない。IEC 62351には複数のプロファイルや設定項目があり、事業者やメーカーごとに選択が異なれば、接続性や相互運用性に影響を及ぼす。マルチベンダーで複数事業者が連携する環境では、利用するセキュリティー機構や設定方針をそろえ、業界共通の仕様として整備することが不可欠である。
電中研は、IEC 61850の通信を対象に、IEC 62351に基づく電力業界向け共通仕様案の開発を進めている。通信認証・暗号化、証明書・暗号鍵管理、アクセス制御を組み合わせたゼロトラストアーキテクチャーも検討する。
具体的には、監視制御や保護にセキュリティー対策を施したIEC 61850を適用し、公開鍵インフラ(PKI)やグループ鍵管理のサーバーを配置することで、制御装置やオペレーターを認証・アクセス制御する。
電力インフラのDXが進展すれば、事業者間のデータ共有や制御システム連携は一層拡大する。サイバーセキュリティーは、個別システムの防御策にとどまらず、安定供給を支える基盤技術となる。
電中研は、IEC 62351に基づく共通仕様案の開発を通じ、セキュリティーと相互運用性の両立を図り、電力業界全体のレジリエンス向上とゼロトラスト化を目指す。
日刊工業新聞(2026年7月23日)掲載
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