
化成品や燃料の多くは、石油や天然ガスなどの化石資源を原料に作られている。これまでの産業は、化石資源を使い、最終的に二酸化炭素(CO2)として大気中に放出する形で発展してきた。しかし、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、こうした流れを変えることが求められている。その有効な手段の一つが、CO2を原料として物質生産を行う「カーボンリサイクル」である。その一つとして、CO2を固定する微生物を使った物質生産の研究が進んでいる。
近年、水素をエネルギー源にしてCO2を取り込む「水素酸化細菌」が、増殖速度が非常に速いという特長から注目されている。報告されている代表的な菌種では約1時間で2倍に増え、らん藻と比べて50~70倍のCO2固定速度を持つ。このような特長を持つ水素酸化細菌を大規模に培養することで、大量のCO2固定が期待されている。増殖した菌体はたんぱく質含量が高く、海外では食料や飼料向けの新たなたんぱく源として事業化も進んでいる。さらに、菌種によってはプラスチック原料などの化成品も生産可能であり、遺伝子組み換えにより生産物の幅を広げることもできる。
電力中央研究所(電中研)では、発電所などから出るCO2を有効利用する技術として、水素酸化細菌を使った有用物質生産の研究を進めている(NEDO GI基金事業 JPNP22010)。同技術は、CO2を原料に有用物質を作る新たな方法として、将来広く活用される可能性がある。一方で、社会実装には課題もある。培養時には水素、酸素、CO2を培養槽に供給する必要があるが、水素は水に溶けにくく、ムダなく微生物に使わせることが容易ではない。さらに、水素と酸素を同時に扱うため、安全性の確保も欠かせない。一般的な気泡によるガス供給では、水素利用効率や増殖速度の最大化、排ガス中の未利用水素の安全な取扱いが課題となる。
発電所由来CO2を使った水素酸化細菌による物質生産のコンセプト
そこで電中研では、水素を水に溶かした状態で供給する技術や、微細な気泡として水素を供給する技術の開発に取り組んでいる。微細化により表面積が増え、気泡の浮上速度も低下するため、水素供給効率の向上や排ガス中の水素濃度の低減が期待できる。
今後は、培養だけでなく生産物の回収まで含め、エネルギーロスの少ない大量生産システムを構築することが重要である。CO2を単なる「排出物」ではなく、次の産業を支える「資源」に変えていく。電中研は、関連企業と連携しながらCO2を資源として生かす技術の研究開発を進めていく。
日刊工業新聞(2026年5月14日)掲載
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