
強風時の風荷重による送電用鉄塔の損壊や竜巻での飛来物が衝突した際の設備損傷などの電力設備被害を低減するためには、風が構造物に及ぼす影響を正確に評価する必要がある。風が構造物に当たった際、周囲にどのような流れ場が形成されるかを理解することが、その基盤となる。
この影響を確かめる主要な手段が風洞実験で、空気の流れを制御した環境に模型を置いて現象を再現する。そこで流れを計測する際には、熱線流速計やレーザードップラー流速計が広く用いられてきた。これらの手法は流速を非常に高い精度で測定できるものの、点計測であるため流速の空間分布を同時に把握できず、渦の発生といった非定常な現象を十分に捉えられない。また、模型の周り全体を計測するには長時間を要するという課題があった。
一方で、空気の流れに追従する微小粒子(トレーサー)の動きを撮影して流れを調べる「画像計測」は、流速の空間分布を一度に計測できる有効な手法である。しかし、視野の奥行き方向の動きを捉えられず、計測できるのはある断面上の2次元的な流れに限られていた。
流れは本来3次元的であるため、画像計測を2次元平面から3次元空間へと拡張する研究が進められてきた。代表的な方法は、複数台のカメラを異なる方向に配置し、多視点からの撮影と三角測量により粒子位置を求めるものである。しかし装置コストが高く、大掛かりで調整に手間がかかることから実務で広く使われるには至っていなかった。
電力中央研究所では、低コストかつ、より手軽に扱える方法として、撮影された画像の色情報を活用することで、カメラ1台だけで3次元の流れを計測できる「レインボー粒子追跡法」の開発に取り組んでいる。写真は、模型の周囲の流れを計測している風洞実験の様子である。家庭用プロジェクターで視野の奥行方向に色が変化する虹色の光を模型の周りに照射している。撮影された画像上の粒子の動きと色の変化から3次元流速分布を算出する。
この方法により、低コストで扱いやすい装置構成で模型まわりの流れを3次元的に計測でき、非定常な現象を捉えることもできるようになった。さらに現在、得られた3次元流速分布のデータを深層学習と組み合わせ、流体の方程式を解くことで、模型表面に作用する圧力、すなわち構造物にかかる風荷重の推定にも取り組んでいる。
日刊工業新聞(2025年12月11日)掲載
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