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旬刊 EP REPORT EWN(エネルギーワールド・ナウ) 

旬刊 EP REPORT EWN(第2188号)
国連が探るネットゼロの先 1.5℃超過後の気候政策
超過から気温低下への道筋

国連環境計画(UNEP)は今年9月、報告書『Limiting Overshoot』を公表した。1.5℃超過を出発点に、上昇・ピーク・低下・安定化の各段階で必要な対策と課題を整理している(図)。排出削減と二酸化炭素除去(CDR)による「緩和」と被害を抑える「適応」を一体で論じ、今世紀末までに1.5℃未満へ戻る可能性を探る。

図

1.5℃超過後の気温と正味CO2排出量の経路(概念図)

出所:UNEP『Limiting Overshoot』(2026年)図1.1・図5.1を参考に作成
注:世界全体の模式的な経路の一例。1.5℃未満への復帰は保証されない。メタン等の大幅削減も前提とする。

世界の気温上昇は、数年以内に産業革命前比1.5℃を超えると見込まれる。これは単年ではなく、20年平均の気温上昇を指す。各国の削減計画やネットゼロ目標をすべて達成しても、気温上昇のピークは中央値で約1.8℃とされる。

それでも排出削減の意義は失われない。CO2による気温上昇は累積排出量にほぼ比例するため、削減を進めるほど、その先の上昇を抑えられる。一時的な超過でも、種の絶滅など、気温が下がっても取り戻せない損失が生じ得る。氷床の不安定化も懸念され、永久凍土の融解による炭素放出が温暖化をさらに促す恐れもある。だからこそ報告書は、ピークを0.1℃でも低く抑え、超過期間を1年でも短くすることがリスク軽減につながると強調する。

ただし、気温上昇を止めることと気温を下げることは同じではない。削減後のCO2排出(残余排出)を同量のCDRで相殺する世界全体の「ネットゼロCO2」は、メタンなどの大幅削減と併せて温暖化を止める重要な節目となる。そこから気温を下げるには、除去が残余排出を上回る「ネット・ネガティブCO2」を続ける必要がある。大気中の寿命が短く、削減効果が早く現れるメタンの追加削減も、気温低下を補完する。

しかし、CDRで気温を下げるには、膨大な除去量と長い時間が必要になる。報告書の試算では、除去量から残余排出を差し引いた「純除去」を年100億t続けても、現在のペースで10年分の気温上昇を打ち消すには約50年かかる。年100億tは、現在のCO2排出の約4分の1に当たる。気温を約0.1℃下げるには、累積約2200億tの純除去が必要とされる。この試算はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最良推定値を用い、同量のCO2の排出と除去による気温上昇・低下が同程度と仮定する。実際の冷却効果が小さければ、さらに時間がかかる。

純除去を増やす方法は、除去量の拡大だけではない。残余排出をさらに減らせば、同じ除去量でも相殺に回す分が少なくなり、その分だけ純除去が増える。つまり、ネットゼロCO2の後も排出削減を続けることが、気温低下につながると報告書は説く。

残余排出の追加削減には費用や技術上の制約がある。除去量の大幅な拡大も容易ではない。今世紀末までに気温上昇を1.5℃に戻す道筋の多くは、2100年に年150億~240億tの除去を前提とし、この中には、残余排出の相殺分も含まれる。これに対し、過去10年の除去は植林などで年平均約20億t、その他の手法ではその千分の一程度にとどまる。

制約は手法ごとに異なる。植林には土地の制約や、蓄えた炭素が再放出されるリスクがある。バイオマスのエネルギー利用とCO2回収・貯留を組み合わせるBECCSには食料生産との競合、大気から直接CO2を回収・貯留するDACCSにはエネルギーと費用の制約がある。地中貯留の利用可能容量も地質や社会的条件に制約され、海洋CDRには効果や検証の不確実性が残る。

こうした制約から、CDRの拡大が順調に進んでも、今世紀中の気温低下は0.数℃程度にとどまる可能性が高いと報告書は評価する。将来の除去を見込み現在の削減を緩めれば、必要な除去量は増える。技術開発や除去の検証・長期管理を支える制度整備にも時間がかかる。ネットゼロの先への準備を「現世代の課題」とし、各国のネットゼロ達成に向けた取り組みと並行して、排出責任や対応能力に応じた分担の下で、ネット・ネガティブに向けた政策・制度の検討を求めている。

気温が下がっても、超過の影響がなくなるわけではない。海面上昇は数世紀続き、生態系の喪失や住民移転の影響も残る。極域では、気温が下がるペースが世界平均より遅い可能性がある。高温に合わせた農業やインフラも、気温低下時に再調整が必要となり得る。このため、気温低下を目指す間も、実現後も、適応が必要になる。適応は、社会が排出削減を続ける力も守る。山火事への備えを進めれば森林に蓄えた炭素を守ることができ、災害対応の負担を減らせば排出削減に充てる財政・行政の余力を保てる。報告書は、適応を排出削減の継続に必要な条件と位置付け、両者を並行して進めるよう求める。

こうした道筋に不確実性が残ることも、報告書は指摘する。気温上昇から低下までの経路全体の経済的影響や被害の偏りは、まだ包括的な評価がない。また、ネットゼロCO2達成時の残余排出は政策や技術の想定によって異なる。CDRの拡大や気候の応答にも不確実性があり、1.5℃未満への復帰は保証されていない。

以上から筆者は、温暖化とその被害を抑える取り組みを続けながら、新たな科学的知見や対策の費用・効果に応じて政策を見直せる仕組みを整えることが重要だと考える。

著者

坂本 将吾/さかもと しょうご
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 兼 社会経済研究所 上席研究員

旬刊 EP REPORT 第2188号(2026年10月11日)掲載
※発行元のエネルギー政策研究会の許可を得て、記事をHTML形式でご紹介します。

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