
前回まで、本欄では電力設備周辺の植物リスクが、日常対応の中で抑え込まれながらも蓄積していく構造を整理してきた。
電力設備に対する植物の脅威について連載してきたが、最終回となる今回は、電力設備周辺の植物成長をどこまで管理できるのか、その制度的な制約と社会的な意味を考える。
電力設備の多くは、借地や国や自治体が管理する土地(行政財産)に設置されている。使用許可や契約で認められているのは限定的な利用であり、土地の形状や性状を変更する行為には制約がある。盛土や切土はもとより、土を掘り起こすような耕起といった地盤に直接作用する行為は、別途の手続や承認が求められることが多い。薬剤散布も、本来は土地そのものではなく植物に直接作用するものであるが、行政財産において運用上は慎重に取り扱われる場合が多い。ここではその可否の詳細には踏み込まないが、少なくとも現場が結果に応じて柔軟に選択できる管理手段とは言い難い。
加えて、管理は契約範囲内に限定される。地上部の刈り取りは行える場合が多いが、契約外や他の主体が管理する領域に踏み込む対応は難しい。
植物は境界を意識せずに広がるが、制度は境界によって行為を区切る。この二重の制約が、管理の限界を形づくっている。
問題は、管理の思想そのものの違いにある。行政財産の管理や契約実務は、基本的に「何をしてよいか」「何をしてはならないか」という行為をあらかじめ定める枠組みである。
一方、植物管理は、本来あらかじめ許容された行為から組み立てるものではない。維持すべき状態を定め、そのために必要な手法を状況に応じて選び、組み合わせていく。刈り取りや防草シートによる物理的遮断、薬剤処理などは単純に相互代替できるものではなく、立地や成長段階によって適否が変わる。問われるのは、行為の可否ではなく、結果として維持すべき状態が保たれているかどうかである。
ところが現実には、許容される行為が先に規定され、その範囲内で管理する構造となっている。これは植物管理の本質とは順序が逆であり、仕様規定型管理との間に構造的な不整合が生じている。
このような管理は、誰のためのものなのか。設備周辺の植物を管理することで、電気事業者にとっては巡視や保守業務が効率化され、突発的な対応が抑制される。
しかし、その効果は内部の合理化にとどまらない。電力の安定供給は社会活動を支える基盤であり、設備周辺の植生を適切に管理することは、停電事故の未然防止や災害時の被害拡大の抑制など、社会全体の安全性の確保にも関わる。
さらに、植物管理を社会的リスクへの対応として制度的に位置づける動きは、国際的にも広く共有されている。近年、わが国でも法制度の見直しが進み、改正植物防疫法において雑草がまん延防止の対象として明確に位置付けられた。もっとも、その制度化は農業部門を出発点として、整備が始まった段階にある。そのため、電力設備周辺の植生管理は、いまなお個別契約の枠組みに依拠している。
電力設備周辺の植物成長をどこまで管理できるのか、という問いは、設備保守の範囲にとどまらない。過度な雑草繁茂は、公衆衛生や防災など、周囲に波及する社会的課題と結び付く。
一方、わが国では、借地契約や行政財産の使用許可といった枠組みの中で課題が処理されてきた。周囲と一体で捉えるべき植生の問題が、結果として設備保守の課題として整理され、その範囲内で対応が積み重ねられてきた。
植物は境界を選ばないが、制度は境界で責任を区切る。
どこまで管理できるのかという問いは、やがて、誰がどの目的のもとに管理を担うのかという問いへと移る。
電気事業がその一翼を担ってきた以上、それは単なる業務改善の問題ではなく、地域の安全性と基盤維持に資する社会的価値として位置付け直される余地がある。設備の足元を越えて、地域の環境全体をどう整えるのか。制度と契約の枠組みを見直すことは、その価値を可視化する契機となる。それは、現場で積み重ねられてきた努力を、より持続的なものとするための議論でもある。
電気新聞 2026年3月25日掲載