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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(346)
ドゥンケルフラウテ(曇天・無風)は電力系統にどのような影響をもたらすのか?

ドゥンケルフラウテとは

風力発電や太陽光発電などの変動性再エネは、発電時に二酸化炭素を排出しないため、地球温暖化対策として期待されている。一方で、天候や時間帯によって発電量が変動するため、安定した電力供給が困難となる側面もある。これまで、変動性再エネに関わる極端現象としては、短時間の出力急変(ランプ現象)に焦点が当てられてきた。しかし近年では、曇天・無風の状態が数日間続き、長期にわたって出力が低下する「ドゥンケルフラウテ(ドイツ語:英訳ではダーク・ドルドラムズ)」や「エネルギー干ばつ」といった新しいタイプの異常気象(極端現象)にも注目が集まっている。

曇天・無風の影響

これらの現象は、変動性再エネの普及率が高い場合、その規模や電力系統の状況によっては、需給逼迫、電力料金の異常な高騰、さらには停電など、社会的に大きな影響を与える可能性がある。実際、再エネ普及率が高い欧州では、長期の曇天・無風が顕著な影響をもたらすようになってきている。特に冬季には、高気圧場の停滞に伴い霧による曇天と無風状態が同時に発生する傾向がある。

コペルニクス気候サービスおよび欧州風力連合の報告によれば、2021年の夏から秋にかけて、北大西洋域がブロッキング高気圧に覆われたことで、欧州北部では長期間にわたり低風速状態が続き、年間平均風速は過去30年平均より約10%低下した。風力発電は風速の3乗に比例するため、わずかな風速の変化でもタービン出力には大きな影響を与える。その結果、同年夏季(7月~9月)の風力設備利用率は例年の20~26%に対し14%にとどまった。

この長期的な低風速状態は、発電用燃料としての天然ガス需要の急増を招き、天然ガス価格と電力料金の上昇を引き起こした。また、化石燃料ベースの火力発電への依存が高まったため、二酸化炭素排出量も増加した。さらに、ドイツでは2023年および2024年の冬季にも長期間にわたり曇天・無風の状態が続き、欧州の一部地域では電力料金が急騰する事態となった。

欧州系統運用者ネットワーク(ENTSOーE)は、長期気候データ(過去の気象情報を用いて電力需要や変動性再エネの出力を再構築したデータ)の解析に基づき、こうした事象は欧州において年間2~4回発生し、平均して6~10日間継続する可能性があると報告している。また、最悪ケースシナリオでは、各国で数TWh規模の電力不足が生じる可能性があるとして警鐘を鳴らしている。

気候変動の影響

前述のように、曇天・無風の状態は、高気圧の停滞といった短期的な気象要因によって引き起こされることが多いが、長期的な視点では気候変動による影響も見逃せない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(2021年)によれば、2050年以降に気温が2℃上昇した場合、北米・日本・欧州(特に地中海沿岸地域や北欧)では地上平均風速が低下する傾向があり、地域によっては最大で約10%の低下が予測されている。これは、北極が赤道周辺地域よりもはるかに速い速度で温暖化することで、高緯度側と低緯度側の気圧の南北勾配が弱まり、全球規模の東西循環が弱化するためである。さらに、循環の弱化により高低気圧が停滞しやすくなることで、長期の曇天・無風事象の発生率も今後上昇していくと考えられる。

将来の電力システム下における課題

カーボンニュートラルの実現に向けて変動性再エネの導入が進む中、今後数十年で世界の電力システムは大きく変化し、気象や気候の変動にさらに左右されるようになる。曇天・無風事象による出力低下の影響は一層深刻化し、変動性再エネの出力変動が電力系統の負荷分散に与える影響も増大する。こうした変動を緩和するため、将来の電力システムには強靭性と柔軟性を兼ね備えた設計が不可欠である。稀な極端現象への対応力を高めるには、エネルギー貯蔵技術やデマンドレスポンスの活用が重要な役割を果たす。欧州の事例は、気象・気候変動に対する電力システムの脆弱性を明確に示しており、日本でも同様の課題の顕在化が予想される。これらの観点を踏まえ、電力中央研究所では、日本における曇天・無風事象の発生メカニズムや気候変動による影響の解明、さらに長期的な予測技術および関連データベースの整備に向けた研究開発を推進している。

著者

大庭 雅道/おおば まさみち
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 上席研究員
2009年度入所、専門は気候変動・再エネ、博士(理学)。

電気新聞 2025年12月10日掲載

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