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電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(343)
風車ブレードのエロージョンリスクを評価できるか?

前回の本欄では風車ブレードの減肉(以下、エロージョン)に関する国際的な研究開発動向と技術課題について紹介した。電力中央研究所では、現在、洋上風力発電プロジェクトの計画段階におけるエロージョンリスク評価、運用による損傷抑制技術の開発、補修指針の合理化に向けて、解析的な損傷評価手法の構築を進めている。

レインエロージョンの解析的評価手法

レインエロージョンは、雨滴がブレードに繰り返し衝突することで発生する。この過程ではブレード表面に薄い水膜が形成され、この水膜が雨滴の衝撃力を緩和することで損傷の進行が抑制される。例えば、厚さ5ミクロン程度の水膜でも応力低減に効果があり、水膜により、25%程度寿命に違いが生じることが報告されている。

したがって、実機ブレードのレインエロージョン進行を予測するためには、水膜の形成挙動や応力低減効果の解明が不可欠である。当所では、雨滴衝突による水膜形成の数値解析手法と、雨滴衝突時の応力場を解析する手法を開発しており、同手法によって、図のように、雨滴が衝突した際の応力場の変化を詳細に評価することが可能になっている。

図

図 雨滴衝突時の応力分布

固体粒子によるエロージョンの解析的評価手法

これまで、風車ブレードのエロージョンについては、主にレインエロージョンに焦点が当てられてきたが、近年では、固体粒子の影響が過小評価されてきた可能性が指摘されている。例えば、英国では海塩エアロゾルや近隣採石場由来の粉塵が著しいエロージョンを引き起こすこと、米国南部では雹(ひょう)によるエロージョンリスクが大きいことが報告されている。

日本においても、春季の黄砂飛来や、春~初夏・秋の降雹頻度の高さから、雨に加えて固体粒子によるエロージョンリスクの評価が重要である。当所では、黄砂を想定して、粒子の風車ブレードへの衝突挙動、および、減肉量の解析手法、また雹を想定した氷球衝突時の応力解析手法の開発に取り組んでいる。

レインエロージョンアトラスの開発

当所では、過去60年間以上の長期間を対象として、日本周辺の気象再現計算を実施しており、その結果を長期気象・気候データベース(CRIEPI-RCM-Era2)として整備している。洋上では陸上に比べて気象観測データが乏しいことから、同データベースを活用し、レインエロージョンリスクを地図上に可視化したレインエロージョンアトラスの作成を進めている。これまでの検討により、日本ではレインエロージョンの進行に、明確な地域性や季節性が存在することが示されており、地域特性に応じた対策の検討が必要になることが示唆されている。

また、レインエロージョンアトラスに基づき、降雨時にロータ回転数を制御することで、レインエロージョンを抑制する「エロージョンセーフモード運転」の効果についても検討している。この「エロージョンセーフモード運転」により、年間発電量の低下を抑えつつ、レインエロージョンの進行を大幅に抑制できる可能性が示されている。

今後の展望

これまで当所では、数値解析を用いた風車ブレードのエロージョン評価手法の構築に取り組んできた。今後は、大学との共同研究等を通じて、実験的な評価手法の開発にも着手する予定である。

気象分野および材料分野の研究者と連携し、洋上風力のエロージョンリスク評価と対策技術の高度化を推進していく。

著者

酒井 英司/さかい えいじ
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
2007年度入所、専門は流体・伝熱、博士(工学)。

電気新聞 2025年10月22日掲載

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