噴煙を伴う爆発的な噴火が発生すると、噴煙に含まれる火山噴出物が風に流され、風下で火山灰が降る。これを降下火山灰(降灰)と呼ぶ。江戸時代には、数十年に一度の頻度で関東地方に降灰をもたらすほどの大規模な噴火があった(例えば、1707年の富士山宝永噴火や1783年の浅間山天明噴火)。これに対し、我が国の電気事業が発展してきた最近の100年間は、大規模な噴火は偶然にも少なかった。このため、電気事業をはじめ、社会全体に火山災害の経験が乏しく、ハード、ソフト両面で対策が不足し、降灰に対し脆弱であると考えられる。
降灰の影響は、発電所建屋への堆積物の荷重、空気汚染による吸気設備のフィルターの目詰まりのほか、送配電網への影響など、電力設備に限ってみても多様である。このような災害(ハザード)が、日本国内でどの程度の規模と頻度で発生するかを事前に評価して備えることは、災害からインフラを守ることや被災後の復旧を考える上で重要である。しかし、これまで降灰ハザードを頻度や確率を用いて定量的に評価し、相互比較する手法は確立されてこなかった。
電力中央研究所の火山影響評価を研究するグループでは、頻度や確率を用いて降灰ハザードを評価する手法を(1)数値シミュレーションに基づく手法と、(2)地質学的調査によって解明された降灰履歴に基づく手法の両面で開発を進めている。本稿では、(2)の手法の成果と課題について紹介する。この手法では、降灰層厚の面的な分布図をデジタルデータベース化することにより、任意の地点での降灰履歴を検索し統計処理を行うことで、降灰の発生頻度を計算するシステムの開発を目指した。当所が整備したデジタルデータベースは、過去約33万年間における503件の降灰層厚デジタル分布図、給源火山名とその位置、噴火名、噴出年代を収録している。
降灰の頻度は、ある降灰層厚を超える降灰の回数を、取り扱う年代で除することで得られる。これを年平均超過頻度といい、取り扱う年代幅によるハザード評価の不確実性を考慮するため、頻度の平均値と、5~95%信頼区間で表現した。このように計算された年平均超過頻度を縦軸に、横軸に降灰層厚をとったグラフをハザード曲線と呼び、定量的な災害評価に用いることができる。
当所が開発したアプリケーションは、ウェブ上で動作し、地図上をマウスでクリックするだけで、簡単に座標を検索可能である。また、検索した座標を用いて、その地点のハザード曲線(図)や降灰履歴データを表示でき、CSV形式でもダウンロードできる。この評価ツールは、当所のウェブページで公開されており、日本語の説明書も整備されている。本ツールを用いることにより、誰でも平易に日本全国の任意の地点で降灰履歴を検索でき、その地点にある構造物やインフラ設備への影響を調査・検討できる。また、地質調査の事前調査として、調査地点での出現候補となる降下火山灰層のリストアップも可能である。
図 東京の降灰ハザード曲線(層厚10㎜の年平均超過頻度10-4を矢印で例示)
本評価ツールは、発電所、送配電網や道路などのインフラ設備への災害影響評価、地質調査支援への応用のほか、一般の方が降灰への理解と関心を深められるよう活用されることも目指している。そのためには、降灰分布図の表示可能事例の追加、噴火事例の検索機能の充実などが課題としてあげられる。最新の地質データの追加や新しい分布図作成手法を導入することで、データベースを更新し、さらに精度良く、わかりやすいツールへと発展させていきたい。
電気新聞 2024年9月25日掲載