電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(314)
ケーブル波乗り現象の定義とその課題解決に必要な取り組みとは?

ケーブル波乗り現象とは

ケーブル波乗り現象は、地中埋設管に敷設されたケーブルが、道路上の車の走行で、主に車の進行方向に移動する現象である。ケーブルが移動すると、それを固定している治具と干渉を起こし、絶縁性能の低下など実務上トラブルの原因になる。そこで、数々の研究が行われ、メカニズムの考察や対策法が提案されてきた。

既往研究と課題

既往研究は、主に2つのモデルに基づき進められてきた。コンベアベルトモデルと波乗りモデルの2つである。前者は水平方向の振動に着目したモデルで、水平方向の振動により管路とケーブルの間に相対変位が生じるモデルである。一方、後者は管路の鉛直方向のたわみに着目したモデルで、鉛直方向のたわみにケーブルが滑り込み、たわみが戻ると、ケーブルの余剰分が車の進行方向に滑って移動するモデルである。

さらに近年、管路とケーブル間の摩擦力の力積差に着目した評価式が提案され研究が進められている。

対策法は、ケーブルに力を加えて拘束する方法が主流である。その代表的なものに、マンホールにケーブルを固定するクリートを設置する方法がある。この手法は、マンホール内のスペースを占めるため作業空間が狭くなる場合がある。そこで、管路内にゴムチューブ等を挿入してケーブルを拘束する方法も考案されている。

このように複数の対策法が開発されてきたが、過度に保守的になる場合もあり、より合理的な対策法の開発が望まれている。これには決定的なメカニズムの解明と、それに基づく評価式の提案が必要である。そこで電力中央研究所は、合理的な対策法の開発を目的に、メカニズムの解明に向け基礎的な検討から取り組みを開始した。

当所の取り組み

当所はケーブル波乗り現象の実験として、金属棒やIV(Indoor PVC)ケーブルを用いた室内小型模型実験、実規模の交通環境を模擬した当所横須賀地区での実大実験を行った。さらにメカニズムの仮説を基に評価式を定式化し、その妥当性確認を行い、仮説検証サイクルを回しながらメカニズムの考察を進めている。

室内小型模型実験では、管路の中にケーブルを模擬した金属棒やIVケーブルを入れ、その管路を室内の小型土槽に埋設し、地盤の上に舗装したアスファルト上を、タイヤを走行させて実験を行った。タイヤが通る瞬間、金属棒やIVケーブルがタイヤの進行方向に移動する現象を確認し、ケーブル波乗り現象の特徴を捉えた実験を行うことができた。そして、実験結果の考察に基づき運動方程式に定式化した評価式を実験に適用すると、実験の移動量を良く再現できた。さらに評価式のパラメーターを変化させた検討で、管路の加速度を抑えることが本現象の対策に有効であることを示した。

実大実験では、実際のマンホール、管路、ケーブルおよび道路環境を模擬して、その上を大型トラックを走らせケーブルの変位を計測した。その結果、大型トラックが通過する度にケーブルが大型トラックの進行方向に移動する変位を計測し、ケーブル波乗り現象を実大実験で再現できた。さらに評価式を用いた検討では、実験結果を良く再現し、ケーブルの移動には水平加速度が影響することを確認した。

さらに実務への適用を想定したソフトウェアを開発した(図)。ソフトウェアでは、電力用規格に応じたケーブルのヤング率等の力学物性値が、データベースとして構築され、入力作業が簡素化されている。今後、ソフトウェアの高度化、合理的な対策法の検討などを進め、将来、実務でのケーブル波乗り現象の正確な把握や有効な対策につなげる。

図

図 ソフトウェアの流れ

著者

吉田 泰基/よしだ たいき
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2014年度入所、専門は地盤工学。

電気新聞 2024年8月14日掲載

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