人口減少や高齢化、脱炭素化の潮流等を背景に、地域の課題を解決し、住民にとっての魅力を高めるまちづくりの重要性は高まっている。地域課題の解決を重視する電力会社にとっても、まちづくりに貢献する事業(まちづくり事業)が今後重要性を増していく。例えば、現時点の大手電力会社の経営計画を見てもまちづくりやスマートシティ、不動産事業に言及する事例は少なくない。また、環境省の脱炭素先行地域の第4回募集までに選定された73件のうち、共同提案者に大手電力会社の名前が見られるものは19件に上る。
まちづくり事業は、地域の住民を取り巻く様々なインフラやサービスに関わるため、電力会社単体で取り組むよりも、他産業の事業者と連携することが有効である可能性が高い。ここでは電力会社が取り組むまちづくり事業について、①都市の価値創造における産業間連携、②地域のエネルギーインフラ維持におけるインフラ間連携の2点から、連携の重要性について考える。
まちづくり事業の一つとして、再生可能エネや蓄電池、EV、エネルギーマネジメントなど、電力会社の強みとする技術も活かしながら、新たなサービスを提供し、住民の利便性や安全・安心、健康的な生活環境等の向上を図ることで、都市や不動産の価値を高めていく事業(都市の価値創造と呼ぶ)が考えられる。電力会社にとってこうした事業は、新たに都市や地域の開発を進める場合に取り組みやすく、不動産価値の向上やサービスの提供を通じて比較的収益化に結び付けやすい。
ただし、エネルギー技術をただ導入するだけでは都市の価値創造を志向する事業として十分ではなく、地域の交通をどうデザインするか、また利便性向上が消費者の選択を通じて実際に不動産の価値向上につながるかといった観点の検討が不可欠となる。電力会社がエネルギー技術を活用したまちづくり事業を行う際には、こうした知見をもつ運輸事業者や不動産事業者と連携することが有効である可能性が高い。
人口減少等の課題を抱える既存地域のまちづくりを考える事業では、どのようにエネルギーインフラを維持し、脱炭素化も踏まえて新たなインフラを形成していくかが重要である。電力中央研究所の既往研究(人口減少下における地域インフラサービスの持続可能性―分野横断的視点による現況と課題の整理―)は、インフラ維持のためには(1)供給の効率化、(2)収入の確保、(3)サービスの縮小という3つの方策やその組み合わせが重要と指摘している。
インフラ供給の効率化や縮小を考える場合、電力インフラだけを対象として検討するのでは不十分である。ガスやガソリン、灯油などの供給網を含めたエネルギーインフラ全体や、交通インフラ等を含め、地域全体のインフラ整備や集約化等の計画と整合する形で検討する必要がある。例えば、過疎化が進む地域においてインフラ全体を縮小していく整合的な計画がないと、供給義務がある電力網のみが最後まで撤退せずに残ることも考えられ、人口がさらに減少する中で高い維持費用を消費者が負担し続けるおそれがある。インフラ間の連携が進むことで、全体としても効率的対応が可能になる。
また、脱炭素化の観点から考えると、例えば運輸部門におけるEVへのシフトを勘案する必要があり、それに伴って必要な充電設備もエネルギーインフラの一部として重要となる。充電設備の整備計画も、人口減少等を踏まえた地域のインフラ整備計画と整合していることが望ましい。その連携がない場合、補助を利用して需要が見込まれない地域への設備立地が進んでしまう等、充電設備の普及策として持続可能性が低くなるおそれがある。
また、充電設備の設置については自治体や多様な民間事業者等が関わるため、どのような主体が連携することが効果的かについても整理が必要となる。
このように、都市の価値創造を志向する事業でも、地域のエネルギーインフラ維持を志向する事業でも、電力会社単体での検討ではなく産業間やインフラ間の連携が重要となる。国内外の先進事例から有効な連携戦略を明らかにするとともに、連携して取り組む事業が実際に地域の魅力につながるか、住民等の意識も考慮した検討が求められる。
電気新聞 2024年6月26日掲載