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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(310)
パワー半導体、パワーエレクトロニクスが果たす役割とは?

パワー半導体、パワーエレクトロニクスとは?

最近、新聞やニュースで、「パワー半導体」や「パワーエレクトロニクス」という言葉が頻繁に登場している。コンピューターやスマートフォンなどに用いられる半導体メモリや大規模集積回路(LSI)といったロジック半導体に対して、パワー半導体は比較的大きな電力を扱うもので、電力の電圧や周波数を制御する働きを担う。パワー半導体を用いた電力変換技術はパワーエレクトロニクスと呼ばれ、インバーターは直流を交流に変換するパワーエレクトロニクス電力変換器である。なぜ今、パワー半導体が注目を集めているのか?

電力系統でのパワー半導体の役割

パワー半導体は、発電分野ではタービン発電機の励磁装置や揚水発電における発電電動機の始動装置と励磁装置に、変電分野では直流送電のための交流/直流変換器や周波数変換所における50/60Hz変換器、電圧と力率の調整や高調波を抑制するための静止型無効電力補償装置に用いられている。これらの機器におけるパワー半導体の適用は50年以上の歴史を有する。近年では、太陽光発電や風力発電、蓄電設備の導入に伴って、それらを系統に連系するための電力変換器でのパワー半導体の活躍の場が増えている。将来に向けては、再生可能エネルギーの主力電源化や電力ネットワークの強靱化に対応するための広域連系系統のマスタープランにおいて、パワー半導体を用いた直流送電や周波数変換所の増強もしくは新設が検討されている。今後、電力インフラを構成するものとして、パワー半導体の重要性が益々高まっていくと見込まれる。

電化技術としてのパワー半導体

パワー半導体は各種機器を電気で駆動し、制御するために用いられる。鉄道分野においてインバーターによる車両駆動の歴史は長く、そこに用いられるパワー半導体の性能は長足の進歩を遂げてきた。1999年の省エネ法改正により導入されたトップランナー方式に基づき、パワー半導体による圧縮機モーター制御を適用した「インバーターエアコン」など、家庭用・業務用電気機器の省エネ性能の向上が図られてきた。ヒートポンプの圧縮機やIH調理器の誘導加熱においても、機器の性能を発揮するためのキーデバイスとしてパワー半導体が活躍している。最近では、ハイブリットカーの駆動インバーター、ならびにプラグインハイブリットカーと電気自動車の充電器および駆動インバーターなど、自動車向けのパワー半導体の需要が急速に増加している。パワー半導体の高性能化は、ヒートポンプの効率向上や電気自動車の充電時間の短縮および航続距離の延伸など、電気エネルギーの利用効率の向上につながる。

将来に向けたパワー半導体への期待

前述のように、パワー半導体の用途は、発電から送電、変電、再生可能エネルギーや蓄電設備の連系、産業・家電機器の制御、電気自動車の充電・駆動を含め、発電から電力消費に至るまで幅広い。パワー半導体を用いた電力変換時には電力損失が生じるが、これを低減することで、極めて大きな省エネ・二酸化炭素(CO2)排出量削減効果が見込める。また、パワー半導体の高性能化によって各種の電気機器の損失低減や小型化が実現されることで、電化促進効果が得られる。

世界的に再生可能エネルギー向けや自動車向けのパワー半導体の需要が拡大しており、今後、パワー半導体の市場が大きく成長していくことが予測されている。脱炭素社会を実現する上でのキーデバイスであることと、それが有する経済効果を合わせた社会的インパクトの大きさが、パワー半導体が注目を集める要因になっていると思われる。

電力系統で使用されているパワー半導体の中には、現場で20~30年間にわたって運転されているものも多く存在する。数十個以上のパワー半導体が組み合わさって、一つのパワーエレクトロニクス電力変換機器が動作するが、パワー半導体の故障は発電機や送変電設備の停止といった事象につながり得る。電力インフラを支えるため、パワー半導体やパワーエレクトロニクス機器の保守・運用技術を確立、向上していくことが求められる。また、電気エネルギーの有効活用を通じて電化を促進するためには、パワー半導体やパワーエレクトロニクス機器の更なる高性能化が期待される。

著者

土田 秀一/つちだ ひでかず
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 研究参事
1992年度入所、専門は結晶工学・半導体デバイス、博士(工学)。

電気新聞 2024年6月12日掲載

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