電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(308)
IEC61850を効果的かつ効率的に国内に適用していくための取り組みは?

IEC61850とは

IEC61850とは、保護制御・自動化システムを対象とした国際規格である。制定当初は変電所構内のみを適用対象としていたが、現在は電力流通分野全体に拡張されている。システムの相互運用性確保を目的とし、保護制御・自動化システムの構築と運用に利用される通信方式および情報モデルを標準化することで、マルチベンダ化およびシステム構築・保守における省力化を促進している。こうした目的で標準化されたIEC61850を国内に適用することで、ユーザーは特定メーカーへの依存を解消でき、メーカーはユーザー毎に対応していた製品設計・製造の合理化を図ることができる。また、データ利活用の基盤整備や系統安定化システムへの応用等、機能の拡張や高度化も期待できる。さらに、IEC61850のうちプロセスバス(IED(Intelligent Electronic Deviceの略で保護制御機能を有する装置)と機器近傍に設置するMU(Merging Unitの略で電流電圧のアナログ信号をデジタル化してIEDへ送信する装置)間を光ケーブルで接続する通信網のこと)を適用することで、メタルケーブルを大幅に削減でき、工事施工の合理化が期待できる。まとめると、IEC61850を国内に適用することで、保護制御・自動化システムに求められる機能が合理的かつ高度に実現可能となる。

IEC61850適用時の課題と解決策

国内変電所へのIEC61850適用時の課題として、国内の一部の要件を充足しないこと、実現したい機能によっては適用方法が複数あること,記述に曖昧な点があることが挙げられる。これらの課題を解決するため、ユーザー、メーカー、研究機関が連携し、共通的かつ効果的な適用方法の検討を進めている。検討結果は「IEC61850の国内電気所適用に関する機能仕様」(以降、機能仕様)として発行され、現時点で国内外の46社が閲覧・活用している(図右上)。現在は、プロセスバスに関する機能仕様を定めるため、ユーザー、メーカー含む全18社での共同研究が行われている。

図

図 実機を用いたマルチベンダ相互接続性試験

実機を用いた試験の実施事例

プロセスバスに関する機能仕様を定めるにあたり、実機を用いた検証として、2023年12月に国内4社(東芝エネルギーシステムズ、日立製作所、三菱電機、富士電機)や国外2社のIEDとMUの製品や試作機を対象に、電力中央研究所でマルチベンダ相互接続性試験が実施された(図右下)。一例として(図左)、日立製作所製のMUからSV(sampled valueの略で瞬時値伝送用の高速な通信サービス)を用いて伝送される電流データを、東芝エネルギーシステムズ製のIEDが受信し、保護リレー演算で過電流と判定された際に、IEDからGOOSE(generic object oriented substation eventの略でイベント伝送用の高速で高信頼な通信サービス)を用いて伝送される遮断器トリップ指令をMUが受信することが可能か、可能な場合は遮断器トリップまでどれほど時間を要するか、との試験が行われた。試験は概ね成功したと言えるが、一部の試験を通じて相互接続性に関する課題も判明した。判明した課題を踏まえ、今後類似する問題が発生しないよう、機能仕様への反映を検討するなど、引き続き課題解決に取り組んでいく。

著者

川﨑 航太/かわさき こうた
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 主任研究員
2023年度入所、専門はIEC61850、保護制御システム。

電気新聞 2024年5月15日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry