電気事業を巡る環境が大きく変化する中、その需要家への影響を計る要素の一つとして、電気料金の国際比較は多くの人々の関心を集めている。そこで本稿では、日本で電力自由化への取り組みが本格的に始まった1995年から2022年までの電気料金の「推移」と「水準」に着目し、それぞれに適したデータ処理をした上で、G7諸国にスペインを加えた8ヶ国の国際比較の結果を示す。
図1は家庭用と産業用の電気料金の長期推移を示しており、各国通貨で評価した場合の推移をそのまま表現するため、最終年である2022年の為替レートを全期間に適用して円換算している。一方で図2は、水準比較のために各年の為替レートで円換算したグラフであり、ここでは3ヶ年分を示している。
図1 電気料金の長期推移比較
図2 電気料金の水準比較
2つの図から各国の電気料金の傾向を確認すると、1995年時点の水準は家庭用・産業用の双方について、わが国は諸外国と比較して顕著に割高であったことがわかる。しかし2000年代に入ると、燃料価格の上昇を背景に欧州諸国の料金が上昇する一方で、日本の料金は東日本大震災が生じた2011年まで低下が続いた。その結果、2010年時点で日本の家庭用料金は中位に、産業用については相対的に高いものの、それ以前のような極端な差は見られなくなっている。
東日本大震災以降は、日本の電気料金は原子力発電所の停止等の影響を受けて上昇傾向に転じ、欧州諸国は引き続き上昇傾向にある。さらに2022年には、ロシアのウクライナ侵略などの影響を受けて燃料価格が急騰し、その結果、火力発電に一定量依存する欧州諸国を中心に電気料金が急上昇した。図1からもわかるように、それまでの推移とは桁違いの上昇幅である。
日本も火力発電への依存が7割近いが、欧州よりは小幅の料金上昇にとどまった。利用するLNGの多くが油価に連動しており、油価は天然ガス価格ほど急騰しなかったことなどが背景にある。その結果として、2022年の水準を比較すると、家庭用・産業用ともに、日本は中位に位置している。
ただし、換算に用いた為替レートは常に変動している。料金差が数円程度ならば、為替レートの変動によって料金の国際的な順位は容易に変わりうる点に注意が必要である。
各国の電気料金の水準や推移には、それぞれの国のエネルギー資源の賦存状況や電源構成、エネルギー政策に基づく税金・賦課金などが大きく影響を与えている。例えば、図2において日本を下回るのは、国内資源に恵まれる米国やカナダ、原子力発電に依存するフランスといったように、日本とは背景や条件が異なる国々である。
料金の国際比較を突き詰めていくと、実は一筋縄ではいかない。数字をただ比較するだけではなく、各国の背景や条件が異なることも踏まえた上で、数字を読み解いていくことが重要である。
電気新聞 2024年4月17日掲載