電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(305)
自然災害リスクからみる無電柱化の功罪は?

自然災害における配電設備の被害の概要

2024年1月1日に発生した能登半島地震を例に、近年、自然災害が日本各地で激甚化する傾向にある。電柱などに代表される配電設備は、敷設条件が多様で需要家施設と近接する設備であることから、台風や地震などの自然災害発生時には、電力施設のなかでも被害の多発する設備である。例えば大型の台風が発生すると、架空配電設備は、風速レベルの増加に伴って被害箇所数も増える。暴露する地域が暴風域(25m/s以上)に達すると、配電柱1万本に数か所程度の配電設備被害が発生することが大まかな目安となる。

大規模台風襲来時に生じる電柱などの架空配電設備の被害は、樹木倒壊、土砂崩れによる地盤崩壊、および飛来物などによる間接的な被害(2次被害)が主な原因となる。このため、被害発生の多少は、配電設備と樹木との近接度や地盤条件など地域特性に大きく左右される。具体的に、数年以内に大規模な台風被害が生じた地域は、同じような風況条件が再来しても、一般に被害レベルは再現せず、むしろ減少することが多い。これは、老木や老朽構造物など、強風に比較的脆弱な周辺施設が大規模台風襲来時に淘汰され、地域特性が変化することが主因と推測され、被害の非再現性と呼ばれる。

地中化設備の被害と復旧

これに対し、地中化設備の場合、架空設備と比較して自然災害時の被害は、一般に少ない。例えば、先の能登半島地震では、架空設備に多大な被害が発生しているものの、2024年3月現在、地中化設備の被害はほとんど報告されていない。これは、配電設備の地中化率が、2022年度の全国比で約6.0%程度であり、設備数が少ないことも要因の一つであるものの、樹木倒壊や飛来物などの間接被害の影響を受けにくくなることが、その主因として指摘できる。このため災害リスクの軽減という観点からは、無電柱化対策が有効との論調は多い。

一方、軟弱地盤地域では、地震発生時に地盤の液状化現象が繰り返し発生することが、近年の研究でわかっている。電力中央研究所では、地震時の液状化危険度を全国250mメッシュで評価できる、配電設備を主な対象とした被害予測システム(RAMPEr)を開発している。同システムによると、液状化発生の再現性が高い地域は全国各地に数多く存在し、そのような地域に多くの需要家施設や配電設備が敷設されていることが明らかとなっている。このような軟弱地盤帯に配電設備を地中化した場合、災害時に被害の発生する可能性はより高くなる。仮に被害が発生すると、巡視による目視点検もままならず、被害箇所を早期に特定することが一般に困難となる。また、道路直下の埋設構造物の復旧は、被害箇所を正確に特定できたとしても、道路機能を維持する必要性や、電力以外のインフラ施設との復旧作業の調整などに、より時間と人手を要す事例が過去の災害時には多い。能登半島地震でも、電力施設と比較して、上下水道の復旧が長期化している。

無電柱化の功罪と今後

架空配電設備の無電柱化のメリットは、主に、景観の改善と災害時の安全性の2点に集約される。前者は、電柱がないことで街並みがすっきりする印象を与える。後者は、電柱がないことで、台風や地震などの自然災害により、電柱倒壊による道路閉塞などの事象を最小限に抑えることができる。

一方、無電柱化の課題として、(1)高いコスト、(2)保守と修理の難しさ、(3)工事の長期化、(4)既存地下施設との調整、および(5)環境への影響等が指摘される。このような課題のうち、特に(1)のコストの問題は、2023年度から導入されたレベニューキャップ制度により、送配電事業者は5年間の事業計画を作成し、計画実行に必要な費用(レベニューキャップ)を国が審査し、託送料金に組み込み事業展開を図ることが可能となっている。

こうした背景から、今後は、ニーズの高い観光地や商店街などを中心に無電柱化を推進していく流れにあるといえる。ただし、災害時の電力レジリエンスの強化(早期復旧)という観点からは、すべての配電設備を地中化することは、既往災害を教訓とするとむしろ逆効果である。どの地域を無電柱化すべきかという議論は、地域特性と災害リスクとの兼ね合いを考慮し、学際的かつ多角的に行う必要があろう。

著者

朱牟田 善治/しゅむた よしはる
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 研究参事
1991年度入所、地震工学、防災工学、維持管理工学、博士(工学)。

電気新聞 2024年4月3日掲載

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