バイオマス発電はカーボンニュートラルな電源として期待され、地産地消による地域経済活性化の観点から、多くの発電所が建設されてきた。海外の開発予測でも、今後の増加が予想されているが、一部の欧州の国では大規模なバイオマス発電所の建設を見合わせている。これは、バイオマス発電事業収益の観点から発電コストに見合った燃料の調達が困難になることと、バイオマスの成長を考慮した開発が必要であることを示している。
バイオマス発電を大きく2つに分類すると図に示すように家畜糞尿、農業残渣などメタン発酵用のバイオマスを利用するシステムと、木質系バイオマスを利用するシステムに分けられる。どちらのシステムでも、一般的に発電容量が小さいほど発電効率は低く、小規模のバイオマス発電の発電効率は20%を下回るものが多い。
メタン発酵システムは、バイオマスの発生源近傍にほぼ設置され、その発電規模は木質系バイオマスシステムに比べ小さく、1000kW未満の設備が多い。これはバイオマス中に含まれる水分量が非常に多いことから、輸送コストに見合う範囲でしかバイオマスを調達できないことに起因する。メタン発酵システムで用いられる発電機は、主にガスエンジンが用いられる場合が多いが、高い発電効率(40%程度)が得られる燃料電池(リン酸形燃料電池や、日本にはないが溶融炭酸塩形燃料電池)を用いているところもある。
木質系バイオマス発電もバイオマス発生源の近傍に多く建設されてきた。しかし、バイオマスの収集の限界から、その発電容量の規模の多くは数百kW~数万kWである。このため、近年では海外からの輸入バイオマスを念頭に、海岸沿いに大型のバイオマス発電所が建設されている。沿岸部にあるバイオマス発電所(1万kW~20万kW)やバイオマス混焼をしている石炭火力においては、発電効率が高いものの、大量のバイオマスが必要である。カーボンニュートラルとしてカウントする場合、バイオマスの発生地域(海外を含む)における植林事業が不可欠である。森林破壊にならないように、買い手側も植林の状態をチェックする必要がある。
このように輸入バイオマスに頼らざるを得ない状況であるが、山間部には多くの未利用バイオマスが放置されている。これは容易にバイオマスを回収・輸送できないことに起因する。このような未利用バイオマスを有効利用するためには、バイオマスの分布に合わせて設置できる、小型で高い発電効率を持つ低コストな発電システムが望まれる。バイオマスガス化装置と燃料電池の組み合わせも考えられるが、規模が大きくなるにつれ、前述の燃料電池がバイオガスにコスト的に適応しづらい。このため、現状ではそのような発電システムは存在しない。
このような状況を鑑み、当所では、数kWの小型でも高効率な発電が期待できるダイレクトバイオマス燃料電池の開発を行っている。このダイレクトバイオマス燃料電池は、燃料電池の反応場に直接木質系バイオマス燃料を投入し発電する装置であり、バイオマスの化学エネルギー(固体炭素、揮発成分)を、電気化学的に直接電気エネルギーへと変換できる。このため、既存のバイオマス発電技術に適用される燃焼用ボイラーやガス化炉を必要とせず、シンプルな機器構成になるため、小型化が可能となる。
将来、このような発電機器が普及すれば、未利用バイオマスの有効活用が促進されるとともに、林業の発展と地球環境の維持に貢献できると考えている。
電気新聞 2024年3月13日掲載