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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(296)
地熱資源の探査にはどのような手法があるか?

近年、自然公園法等の規制緩和、固定買取価格制度(FIT)の実施、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による経済支援等の施策により、日本国内における新たな地熱開発案件が増加している。新たな地熱開発の実施にあたっては、開発可能な地熱資源が賦存する領域(地熱貯留層)の位置や規模に関する探査が行われる。この探査を早くかつ高精度に行うことができれば、より短時間、低コストで開発を進めることが可能となる。

地熱貯留層とは?

地熱発電に使われる地熱流体は、降雨等によって地下へと浸透した天水が起源である場合が多い。地下深くまで浸透した天水が、高温の岩石によって加熱され、熱水あるいは蒸気を含む地熱流体となる。ちなみに、高温の岩石はマグマ等の熱源がある場所に多く分布していることから、地熱流体は火山の近くに賦存する場合が多い。加熱された地熱流体は、浮力により上昇する。流体がそのまま地上まで上昇する場合には温泉として湧出するが、キャップロックと呼ばれる流体を通しにくい地層がある場合には、その深度で流体の上昇が妨げられることにより、地熱流体が地下に溜まる。この地熱流体が溜まった地層を地熱貯留層と呼ぶ。

地熱貯留層探査に用いられる調査の種類

地熱貯留層の探査に用いられる調査として、空中からの概査、地質学・水理学的調査、地球化学的調査、地球物理学的調査の四つが挙げられる。

空中からの概査は、衛星やヘリコプター等を利用した調査により、変質帯・高温領域等の地熱徴候を探査するものである。開発候補地域がアクセスの困難な山岳地帯や国立・国定公園内に位置している場合、効率的に調査しづらいことから、広範囲にわたる概略的な地質・熱構造の探査を目的に、調査の初期に行われることが多い。

地質学的調査は、火山地域の地質及び構造、熱源となる火山活動の年代、卓越する断裂帯の抽出といった、地熱系の地質学的な場を探査することを目的に行われる。また、水理学的調査は、開発候補地域における水理地質構造の推定を目的に行われ、例えば水収支を求めることにより、生産・還元に伴う地熱流体の挙動予測に資する情報が得られる。

地球化学的調査は、地熱流体が関わる熱水対流系の形成機構や流体の起源、さらには、地熱流体の挙動(流動、混合、蒸発)や性状(化学特性、発電利用適合性)を探査することを目的として行われる。調査対象としては、土壌や土壌ガス、温泉水や噴気、地熱井の蒸気、熱水等であり、化学組成や同位体組成等の分析が行われる。

地球物理学的調査は物理探査とも呼ばれており、地下における地層の物理パラメータを地表あるいは地表に近い深度から間接的に調査し、得られた物理パラメータの分布から地質構造や熱源の位置、卓越する断裂帯の分布等を探査することを目的に行われる。対象とする物理パラメータとして、温度、比抵抗(電磁探査)、弾性波速度(地震探査)、密度(重力探査)、磁気(磁気探査)の五種類が挙げられる。近年では、ヘリコプター等を活用して空中から電磁探査・重力探査等を行う手法も開発されており、調査の初期段階に地表徴候だけでなく地下の地質構造に関する情報を得ることも可能になってきた。

地熱貯留層探査結果の活用

以上において示した各種調査の結果をもとに、概念モデルと呼ばれる地熱貯留層に関する定性的なモデルを作成する。そして、概念モデルをもとに、調査結果から得られる地層分布や地層ごとの物性値(間隙率や透水係数等)、熱源等に関する情報を入力して、数値モデルを作成する。地下での熱や水の流れは、数値シミュレーションにより求められ、坑井内における温度、圧力等の測定値と計算値とが整合するように物性値やモデルの修正を繰り返す。このような数値シミュレーションにより、地質構造や熱構造、流体流動を再現できる数値モデルを作成する。数値モデルは、坑井掘削等による情報の追加や、同一箇所における履歴データの蓄積により、より精緻なモデルに更新される。さらには、発電開始後における長期的な地熱貯留層の変化を予測することも可能であり、適切な生産量の把握に役立てられる。

このように、地熱資源の有効利用には、地熱貯留層の位置や状態変化をいかに捉えるかが非常に重要であり、電力中央研究所では、探査・モニタリングの高度化に向けた技術開発に取り組んでいる。

著者

窪田 健二/くぼた けんじ
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 上席研究員
2005年度入所、専門は物理探査、博士(工学)。

森藤 遥平/もりふじ ようへい
電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 主任研究員
2018年度入所、専門は物理探査。

電気新聞 2023年11月15日掲載

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