再生可能エネによる電力を一時的に貯蔵する技術として、蓄電池技術が挙げられる。大規模電力貯蔵のためのエネルギー貯蔵技術開発の必要性は近年認識されており、経済産業省の「蓄電池戦略」では、主としてナトリウム硫黄(NAS)電池、リチウムイオン電池、レドックスフロー電池などを取り上げ、技術の比較を行っている。これらの蓄電池は、全国のあらゆる地域に適用することが可能で、可搬性を持つという利点を有するものの、耐用年数が10~15年と短期間であることや、機器に化学物質を用いていることから、廃棄時における環境への負荷が懸念されるなどの課題も存在する。また、電力系統の安定化のためには、エネルギー貯蔵技術に回転機の慣性力や同期化力を持った周波数維持機能が必要となるが、蓄電池にはこれが備わっていない。さらに、今後の再生可能エネの大量導入を見据えると、電池製造に要する物質の調達にも困難が生じることが考えられる。そこで本稿では、圧縮空気を用いたエネルギー貯蔵技術について紹介する。圧縮空気エネルギー貯蔵は、その英訳の頭文字を取ってCAES(Compressed Air Energy Storage)と呼ばれており、カエスと称する。CAESの技術そのものは約半世紀前から研究開発がなされているものであり、これまでの研究について紹介するとともに、現在考えられている再生可能エネの安定供給を目的としたCAESの概要、これを普及させる際の課題について述べる。
1970年代、我が国における当時のベースロード電源である原子力発電の立地拡大に伴い、これに対する予備力の対応のための揚水発電所に代替する発電技術として、圧縮空気貯蔵ガスタービン(CAES―G/T)発電の研究が開始された。海外でのCAESの適用事例として米国とドイツが挙げられるが、これらの事例においては、岩塩層と呼ばれる地質を空気の貯槽建設対象としているため、掘削が容易であり、また岩盤自体の気密性が高いため、圧縮空気を安価・容易に貯蔵できた。一方、我が国では、岩塩層が地下にほとんど存在しないことから、従来の掘削技術による、トンネル内面に気密材を用いた方式の提案や、電力中央研究所による地下水圧で圧縮空気を封じ込める水封方式の実証などが行われてきた。
再生可能エネのうち、主に風力発電と太陽光発電の大量導入に伴う系統の安定的な運用の必要性が増大している。このため、再生可能エネの安定供給に寄与することを目的としたCAESについて研究が行われている。さらに近年では、CAESのエネルギー効率の向上を目的として、空気の圧縮・膨張時に消失する熱エネルギーを利用したCAESシステムの開発が進められている。このCAESの方式をA―CAESと呼ぶ。頭文字の「A」には、断熱圧縮時に発生する熱を、一時、別の媒体に貯蔵し、膨張時にこの媒体から空気に熱を供給する機構となることから断熱(Adiabatic)という意味と、新型のAdvancedの意味が含まれている。
CAESを含めた電力貯蔵技術の導入コストについては、これまでに国内・海外で複数の検討がなされており、CAESの設備コストは7~14千円/kWhと、蓄電池、揚水発電と比較して安価となっており、導入のメリットは高いものと考えられる。
我が国で2017~2018年に行われたA―CAESの実証実験では、圧縮空気の貯蔵には地上に設置したタンクを用いた。今後A―CAESを含むCAESの導入拡大のためには、大容量のエネルギー貯蔵に対応可能なシステムとしていくことが必要であり、これには貯蔵容量の増大が必須となる。地上タンクにより大きな貯蔵容量を確保するためには、多大なコストを要する。これに対し、地下の間隙(空隙)あるいは掘削された空洞を利用することにより、大きな貯蔵容量が得られれば、コストダウンが図られると同時に、地下に存在することによる貯槽の耐震性の確保、地上の景観保全に寄与するものと考えられる。圧縮空気を地下に貯蔵する対象としては、 休廃止鉱山跡の空洞(廃坑)、油・ガス田、大都市の地下に存在する帯水層などが考えられる。今後、大容量貯槽を持つCAESの適用が望まれる。
電気新聞 2023年11月1日掲載