電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(294)
EV充電と電力系統の協調を促す萌芽的ビジネスモデルとは?

世界的に電気自動車(EV)導入が進んでいる。近い将来の需給調整市場の拡充を見据えて、EV充放電と電力系統の協調(V2G)について多くの研究や実証事業、制度検討が行われている。

V2G参加のインセンティブ問題

V2Gへの参加において、EV所有者、充電ステーション、EV制御者は、図に示すようなインセンティブに関する問題を抱える。

図

・EV所有者は、バッテリ劣化リスクや充電遅れリスクを抱えてまで、他者による充電制御を許容するか。
・EV充電ステーションは、デマンド料金や一部地点で必要な連系工事費負担金へ対処するため、負荷を平準化できるか。EVへの充電出力を制限するか。
・EV制御者(アグリゲータ)はEVや他の分散型リソースを、電力市場に供出するほど信頼性を担保できるか。個人所有の多種・多台数向けの充電制御システムを構築するか。

これらのインセンティブの問題へ対処し、V2Gを促進する可能性のある萌芽的なビジネスモデルを三つ紹介する。

バッテリ併設型急速充電ステーション

急速充電ステーション(QCS)では、電気料金のうちデマンド料金が高額となる。米NASEOによる調査では、QCSの平均費用のうちデマンド料金は74%にも及ぶ。QCSにバッテリを併設することで、充電出力を制限せずピークシフトして電力負荷を平準化でき、電力系統構成の制約により連系工事費負担が嵩む地点でもQCSを設置できる。

北米QCS群運営のElectrify Americaは併設バッテリを負荷平準化だけでなく、VPP(仮想発電所)構築により卸売電力市場サービスにも提供している。

バッテリ交換式EV

バッテリ交換式EVはEVユーザーの充電待ち時間を短縮化できるだけでなく、バッテリ交換ステーション(BSS)内で温度・速度管理することで、バッテリ劣化リスクを低減できる。バッテリの第三者所有権モデルであるバッテリ・アズ・ア・サービス(BaaS)ならば、EV所有者はバッテリ劣化を気にせず済む。加えて、BSSのバッテリを群制御することで、BSSの負荷平準化だけでなく、系統サービスへの貢献も期待される。

中国では、政府主導でバッテリ交換式EVの大規模実証と産業誘導が行われている。既に複数の車両メーカーがバッテリ交換式車両を販売し、EVメーカー主導で数百カ所のBSSが設置されている。Aulton社のBSSネットワークのように、EVメーカーを跨いで相互運用する取り組みもある。

日本では二輪EV向け交換式バッテリのシェアサービスが開始されている。商用四輪EV向け交換式バッテリでは、規格化に向けた検討が行われている。

自動運転を用いた商用車フリート管理

法人がタクシーやバス、トラック等の商用EVを多数台所有する場合、特定の時期・時間帯の非稼働車両をV2Gへ利用する判断を行い易く、充電時間帯や出力を調整して電力市場に整合させうる。また、自動運転技術が進展すれば、高圧受電やV2Gに適した地点へ自動で車両を移動させ、系統サービスに供出できる。

既に米国Waymoや中国バイドゥは、完全自動運転車を用いた無人タクシー事業の実証を行っている。

日本企業も完全自動運転車両プロトタイプ開発や、無人自動運転トラックによる物流事業構築を進めている。

技術課題は山積

本稿では、EVのV2G参加のインセンティブ問題へ対処しうる、萌芽的なビジネスモデルを三つ紹介した。どのモデルにおいても、技術的課題はまだ山積しており、引き続き調査を行う。

著者

山田 智之/やまだ ともゆき
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 主任研究員
2018年度入所、専門はエネルギーシステム分析。

電気新聞 2023年10月18日掲載

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