電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(291)
直流ケーブルの技術課題を解決することで電力輸送技術の未来は拓けるか?

現在、北海道―本州間の連系強化のため、国レベルで長距離直流海底ケーブルの導入に向けた検討が進められている。本稿では、直流ケーブルの現状と導入や長期運用にあたっての課題を述べる。

直流ケーブルの種類

交流だけでなく直流ケーブルも、その絶縁構成から、油浸絶縁紙と絶縁油を用いたOFケーブルやMIケーブル(高粘度絶縁油を用い給油設備を不要としたケーブル)と架橋ポリエチレンを絶縁体に用いたCVケーブルに大別できる。前者は歴史が古く、1950年代にスウェーデンで離島連系線に導入以降、欧州を中心に導入が進められた。一方で、潜在的な漏油リスクがあり、加えてMIケーブルでは導体温度の上昇に伴い高粘度絶縁油が流動して空隙等が発生するなど、絶縁性能低下の可能性が指摘されてきた。近年ではこれらの懸念が皆無な直流CVケーブルが主流となり、現在、欧州を中心に500kV級まで運開している。

海外での直流ケーブルの状況

直流送電は交流送電と比較し、長距離送電や独立した交流系統の相互接続などの利点がある。そこで欧州を中心に、急拡大する洋上風力発電の連系や交流系統の海洋横断での相互接続のため、直流海底CVケーブルの導入が急速に進んでいる。関連する海域の水深が数十m程度と浅く、布設が比較的容易なことも要因の一つである。

欧州では、架空送電線に対する景観阻害や電磁環境問題から新規の架空送電線建設に対する合意形成の難化が見られる。これを受け、陸上でも直流CVケーブルによる長距離地中送電線路の建設が進行している。2016~26年度にかけて特高以上の電圧階級で、陸上・海底、直流・交流あわせて9万㎞程度のケーブルが導入されるとの試算もある。

アジアでは、中国での洋上風力発電や離島連系に伴う直流海底ケーブルの導入が目を引く。400kV級のケーブルも計画中である。また、豪州の砂漠地帯に設置の太陽光パネルによる電力を、長距離直流海底ケーブルによりインドネシアやシンガポールに送電する国際連系計画もある。

直流CVケーブルの技術課題

直流CVケーブルの絶縁体である架橋ポリエチレンに直流高電圧を印加すると、絶縁体内部に電荷が蓄積・偏在する空間電荷蓄積現象が報告されている。空間電荷蓄積が進行すると、直流電気ストレス(直流電界)の局所的上昇につながり、架橋ポリエチレンの耐えうる限界を超えると絶縁破壊に至る。そこで、直流CVケーブル絶縁体には空間電荷が極力蓄積しないことが求められ、絶縁体への添加剤混練など製造各社の技術開発が進められた。しかし、空間電荷分布測定技術の精度確保の困難さや、実用上重要な観点である導体温度90℃程度の高温下での空間電荷測定の困難さから、空間電荷測定は直流CVケーブルの製品規格であるIEC規格等には盛り込まれてこなかった。

電力中央研究所での取組

当所では直流CVケーブルの信頼性評価技術の開発の一環として、上述の技術課題に対する実験的検討を所外関係者と共に鋭意進め、高温下での空間電荷測定の精度向上に成功した。一方でこの現象は直流CVケーブルの運転時には不可避であり、その長期特性は未解明である。今後は、運転状態や施工状況を考慮した長期特性を含む各種条件での空間電荷の挙動と絶縁性能への影響を明らかにし、各種規格への採用も念頭に成果表出を進め、長期信頼性評価技術の確立につなげる。

我が国での早期導入にあたっての課題

我が国での直流海底ケーブル導入にあたり、前述の技術的課題に加え、我が国特有の課題である大水深布設を可能とするケーブルの開発と布設船の専有が重要である。欧州ではケーブルメーカ自身が布設船を保有し、海底ケーブルの布設や保守に対する自由度を高めている。我が国でも、台風や冬季の強風など特有の気象環境を考慮した布設船の独自保有・運用が重要である。

直流ケーブルの将来像

直流により交流系統の独立が可能なため、将来的には再生可能エネを含む交流マイクログリッドの直流ケーブルによる相互接続も想定できる。既設の交流CVケーブルを、空間電荷蓄積特性を考慮して直流連系用ケーブルへ転用できると、設備投資コストの低減が図れる。この実現には、当所の空間電荷評価技術が重要となる。

著者

高橋 俊裕/たかはし としひろ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
2001年度入所、専門は高電圧工学・絶縁診断、博士(工学)。

電気新聞 2023年9月6日掲載

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