地域における電力需要の成長分野として、データセンター(DC)が注目されている。浜潟他(2019)の試算では、もし省エネ技術の進展がなければ、2015年に150億kWhであったDCの電力消費量は、2030年までに650億kWhまで急増する可能性があることが示された。しかし、DCの省エネ技術は、近年急速に進展しており、また、DCが地域の電力需要に与える影響は、DCの立地動向にも大きく依存する。
DCの消費電力は今後急速に増加する可能性はあるが、産業としての成熟度を考えれば、省エネ技術の進展の余地も存在すると考えられる。DCの消費電力は、サーバーをはじめとしたICT機器によるものと冷却用の空調を中心としたそれ以外の消費電力に分けることができる。
ICT機器についてはCPUの高性能化による発熱量の減少や耐熱性の向上が、消費電力の節約に繋がることが考えられるが、これは立地場所に対しては中立的な効果である。一方、冷却用の消費電力については、技術進歩が著しい。近年の大規模DCにおいては、AIを用いた局部的な冷却を効率的に実施するシステムの高度化により、冷却用の電力消費量の省エネは急速に進展している。これに加えて、外気を利用した空冷式や雪冷式、水冷式、海中式等の立地地域の特性を活かした冷却方法による省エネ技術も進展している。このような技術がAIシステムと連携して進展するなら、DCの技術進歩が立地場所の選択に影響するケースも増える可能性がある。
DCの立地は現状では、関東、関西等に集中しているが、今後のDCの立地要件は、DCに求められる機能によって異なることが予想される。近年、外資系のクラウドサーバー事業者を中心に開発が進むハイパースケール(HS)DCは、大規模な土地、大容量の電力・通信需要に対応したインフラを求めて、首都圏の郊外を中心に立地が進んでいる。また、再生可能エネの供給が需要を上回る地方においては、半導体産業等の需要の大きな産業の誘致と併せて大規模DCの誘致を図るケースも見られる。HSDCについては、安価で大規模な土地と大容量の通信・電力インフラに加えて、大きな通信遅延を起こさない範囲の距離で一定の需要を確保できる地域であれば、どこでも潜在的な立地ポテンシャルはあると考えられる。
その一方で、エッジDCと呼ばれるエンドユーザーの近くでデータ処理を行うことによって、通信遅延を解消するDCも現れており、これは自動運転や遠隔医療等に親和性の高いことが知られている。デジタル田園都市国家構想のようなデジタル技術の実装を通じて、人口減少に伴う各種の課題解決を図る取り組みも始まっており、地方におけるDCの需要も高まっていくことが予想される。
DCに対する需要の増加を電気事業との関連からみると、第一には電力需要増に対応する供給の確保という点があげられる。近年のDCでは、特にクリーンエネルギーへの需要が大きいため、DCの立地に際しては、脱炭素電源が安定的に、そしてできるだけ安価に供給されることが立地条件のひとつになる。第二には、大規模なDCは、立地場所によっては地域の配電系統への負荷が大きくなるという点である。地域の潮流の観点から配電系統にとって望ましいDCの立地場所とDC事業者が望む立地場所が必ずしも一致するとは限らない。しかし、DCの需要のみから立地場所が決まり、配電インフラの増強費や他の系統安定化のための費用が増加することになれば、結局は、地域の産業や住民がその負担を負うことになる。再生可能エネが増加する中で、地域の配電系統の増強に繋がらない形で需要増を受け入れるためのDCの立地誘導策も、今後に向けて、検討すべき課題となる。DCは、地域産業の成長や地域の課題解決において不可欠となるデジタル化の象徴的な存在とも言える。このDCの電力需要増を、需要家のコスト増に繋がらない形で受け入れていくことは、電気事業者のみならず、地域経済における持続的成長にとっても重要な課題なのである。
参考文献:浜潟他(2019)「IT機器・データセンターの電力消費動向に関する基礎的検討」,第38回エネルギー・資源学会研究発表会.
電気新聞 2023年7月26日掲載