電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(287)
アセットマネジメント技術は電力流通設備の在り方まで評価できるか?

高経年設備対策としてのアセットマネジメント

前回の本欄で、アセットマネジメント技術の一部である設備個々の定量的なリスク評価技術が、日本の高経年化した設備の更新計画策定に活用されるようになったことを紹介した。ここで算出される「リスク量」はアセットマネジメントにおける「評価指標」の一つである。アセットマネジメントの国際規格であるISO55000シリーズではアセットマネジメントを「アセットからの価値を実現化する組織の調整された活動」と定義している。設備のアセットマネジメント技術とは組織内で統一された方針、考え方のもと、種々の項目を勘案した「評価指標」を用いた価値評価に基づき、保全方策等を検討・決定するための技術である。OCCTO(電力広域的運営推進機関)の「高経年化設備更新ガイドライン」では、事業者が保有する全設備のリスク量を合算したリスク総量という「評価指標」を採用し、これが経年進行によって増加しないように、リスク量の大きい高経年設備を更新する保全計画を立てるために活用することとしている。

アセットマネジメントにおける評価指標

設備のアセットマネジメントにおける「評価指標」としては、OCCTOのガイドラインで定義するようなリスク量に加えて、設備維持管理に関わるコストにも着目する考え方もある。電力中央研究所ではリスクを支出の統計的期待値として求めて両者を合算し、将来にわたる想定支出額の累積値から、候補となる保全計画案(シナリオ)を比較・選定する手法を提案している。ただし、リスク量や所要コストといったマイナスの要因にのみ注目する考え方は設備規模を一定に維持することを前提としている。従来から電力流通設備を対象に行われている検討では、ほとんどの場合、現状の設備規模(設備数)を維持するため(あるいは1台の設備を修繕や更新を繰り返しながら維持するため)のリスクやコストを「評価指標」としている。ISOで言う「アセットからの価値」とは、この場合、リスクやコストの低減分となる。しかし、例えば、設備数を減らせばそれだけでリスクもコストも低下することになってしまう。またいわゆるダイナミックレーティング技術などにより既設設備のパフォーマンス向上を図ると、ここではそれによるリスクやコストの増加としてカウントされてしまう。つまり前提とする設備条件(規模や運用方法)が異なる「シナリオ」を、この「評価指標」だけでは比較・検討できない。

電力流通設備のベネフィット

アセットマネジメントにおいて、「アセットからの価値」とは本来、リスクやコストなどのマイナス要因と、ベネフィット・バリューというようなプラス要因を総合して考えるものである。これらは立場(ステークホルダー)によって異なることもあるが、公共インフラと呼べる電力流通設備については、維持・管理に要するコストと故障等で生じるリスクに加え、電力供給が社会にもたらすベネフィットを評価すべきではないかと考える。ベネフィットとしては、供給される電力量に加え、必要な電力がいつでも必要とされる時に供給可能となる状態が提供されている、ということが考えられる。例えば、ある地域にある容量の電力が供給可能な状態にあることが、(設備の設置責任の所在に関わらず)その地域の価値を高めている、あるいは地域のGDP実現や人口の維持に寄与している、と考えれば、それをそこに関わる設備がもたらすベネフィットとして評価可能である。このようなベネフィットは結局ネットワーク全体で実現されるため、ある設備群運用シナリオや設備群構成シナリオにおいてネットワークがカバーするエリア全体で積算し、リスク・コストと共に「評価指標」として取り扱うことが考えられる。

アセットマネジメント技術による設備の最適運用・最適構成の検討

設備条件が固定されていれば、設備のもたらすベネフィットはそれが棄損されるリスクとして取り扱うことも可能である。しかしながら今後、社会的課題として、設備運用方法や設備規模・構成の最適化が必要となると考えられる。その際、適切な「評価指標」を設定し、候補となる複数のシナリオを比較・検討することで、アセットマネジメント技術はこの課題に対応できる、すなわち「電力流通設備の在り方」まで検討できる、と期待される。

著者

高橋 紹大/たかはし つぐひろ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 副研究参事
1996年度入所、専門は高電圧工学・絶縁診断、博士(工学)。

電気新聞 2023年7月12日掲載

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