内容の一部に誤りがあり、訂正をいたしました(2023年6月22日)。
ご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳ございません。
なお、PDF版は掲載当時のものとなりますので、ご了承ください。
(誤)約4.3兆円 → (正)約5兆円
(誤)約2兆円 → (正)約4兆円
2050年のカーボンニュートラル実現には、エネルギーの供給側と需要側の両側での取り組みが必要だ。需要側では、設備とCO2排出は固定化(ロックイン)されやすいという課題がある。
例として、家庭用給湯機器の種類の変更を妨げる要因を挙げる。
1つ目は、故障時の緊急交換が多く、同様の機器が選択されやすいというものだ。2つ目は、機器交換に伴う費用増加であり、エコキュートをはじめとするヒートポンプ給湯機(電気省エネ型)に交換する場合、高い機器単価に加えて、基礎工事などの費用も必要となる。3つ目は、特に集合住宅では、設置スペースなどの制約により、既築で他機器から電気省エネ型への交換は困難な場合が多いというものだ。
そこで筆者らは、機器種類による単価や工事費の違いの反映と、集合住宅では他機器から電気省エネ型に交換できないとする制約により、ロックインを考慮した家庭用給湯分野のCO2削減可能性を分析した。
分析では、3ケース間で、2020年から2050年にかけての給湯機器のシェア変化や排出量、費用を比較した。電気のCO2排出係数は徐々に減少し、2050年にゼロになると仮定した。
期間の合計費用は、現状の機器採用を続ける「現状維持ケース」と比較して、費用最小となる機器を採用する「経済性重視ケース」で約5兆円、費用を抑えつつ2020年比で2050年にCO2を80%削減するよう機器を採用する「80%削減ケース」で約4兆円の抑制となる。CO2の削減を進めてもなお、現状の機器採用を続ける場合より費用を抑えられることは注目に値する。
戸建て住宅と集合住宅の電気省エネ型給湯機のストックシェア推移を示す(図)。
はじめに、現状維持と経済性重視の2ケースに着目する。ケース間の差より、戸建て住宅は、経済合理性のもと電気省エネ型を採用する余地が大きいとわかる。一方、集合住宅は、経済合理性の出にくい少人数世帯が多いことも影響している。
次に、経済性重視と80%削減の2ケースに着目する。戸建て住宅は、2ケースのシェア推移が2040年頃まではほぼ一致し、以降は差が開いていく。当面は経済性の高い機器を着実に採用したうえで、2050年に向けて最後の機器交換の機会となる2040年頃からは、CO2大幅削減のために電気省エネ型の採用を急激に増加させる必要がある。集合住宅は、2ケースのシェアは足元から差が開いていく。既築での電気省エネ型への交換が困難という、特有のロックイン問題があるため、早期から新築での採用を増やす必要がある。
このような定量分析で、費用を抑えたCO2削減に必要な対策が対象ごとにみえてくる。一方で、分析だけでは実際に対策を進めるうえでの障壁はわからないため、実態把握調査も不可欠だ。賃貸住宅や機器選定の関係者へのインタビュー調査では、オーナーには光熱費削減メリットがないなどの障壁を明らかにしている。カーボンニュートラル実現に向けては、こうした障壁を解消する施策を検討していく必要もある。
本記事の分析や前述のインタビュー調査の詳細は、電力中央研究所が2月にウェブ公開した電力経済研究特集号「脱炭素化のために電化にどう向き合うか」に所収されている。
電気新聞 2023年5月31日掲載
一部訂正 2023年6月22日