電力中央研究所

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電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(280)
インバータ電源による電力系統の安定化にはどのような課題があるか?

太陽光発電等の再生可能エネをリソースとした電源は、一般的に変換器(インバータ)を用いて電力系統に接続される。これらのインバータ電源の導入拡大に伴い、火力発電などの同期機を用いた電源は電力系統に接続される機会が減少している。同期機の電気的および機械的な特性は、電力系統の周波数や電圧を維持するために重要な役割を果たしている。このため、電力系統に接続される同期機の減少による悪影響が懸念されている。

インバータ電源による電力系統の安定化

同期機は運動方程式に基づく応答や電圧源としての特性から、電力系統で発生した周波数や電圧の変動に対して瞬時に応答し、変動を抑制することができる。一方、広く普及しているインバータ電源は、電力系統の電圧を基に出力する電流を決定する制御(グリッドフォローイング型と呼ばれる)により、同期機とは本質的に異なる原理で動作している。このため、インバータ電源が電力系統の安定化に貢献できるかどうかは、その制御に依存する。また、同期機であれば回転体に回転エネルギーが蓄えられており、これを電力系統の安定化に利用できる。一方、インバータ電源においては、蓄電池などによる代替のエネルギー源が必要となる場合がある。このような背景から、近年では蓄電池を併設したインバータ電源で、同期機と類似した応答を実現するための制御がいくつか提案されている。例としては、同期機の運動方程式に基づく擬似慣性があり、擬似慣性が適切に動作すれば、電力系統の周波数の急激な変動を抑制することが期待できる。

インバータ電源の安定性についての課題

グリッドフォローイング型のインバータ電源で同期機の特性を模擬する場合、電力系統における電圧の大きさや電圧位相角を検出する必要があるため、同期機のように瞬時の応答はできない。また、インバータ電源から出力された電流が電力系統の変圧器や送電線を通過すると、電圧の大きさや電圧位相角に変動が生じる。これはインバータ電源が検出している値にも影響を及ぼし、低短絡容量などの条件下ではインバータ電源が振動的な応答を示す場合がある(図)。この事象は制御の安定性理論から説明可能である。安定であれば、振動的な応答は時間の経過とともに収束するが、不安定であれば振動が継続する。その結果、周波数や電圧などの面で電力品質に悪影響を及ぼす場合がある。代表的な事例としては、単独運転検出機能に起因した電圧フリッカが挙げられる。この電圧フリッカへの対策は、インバータの製作メーカや一般送配電事業者の協力により進められてきた。一方、同種の不安定な応答は、グリッドフォローイング型のインバータ電源であれば、電力系統の安定化に貢献しようとする制御においても発生する可能性がある。

図

課題解決に向けて

インバータ電源の不安定化を防止する対策はいくつか考えられているが、現時点では課題が残されている。このため、明確な対策が確立されるには議論と時間を要する。例えば、電圧の大きさと電圧位相角をインバータ電源が自ら作り出す、グリッドフォーミング型の活用が有効と考えられている。しかしながら、グリッドフォーミング型は事故時運転継続性能などの面で課題があり、まだ広く普及するには至っていない。今後は、電力系統の安定化への貢献とともに、インバータ電源の不安定な応答の抑制も重要な観点となる。

著者

白崎 圭亮/しらさき けいすけ
電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 上席研究員
2008年度入所、専門は電力系統の安定性維持に関する解析・制御。

電気新聞 2023年3月29日掲載

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