電力中央研究所

一覧に戻る

電気新聞ゼミナール

電気新聞ゼミナール(274)
IoT技術の大量導入に向けてセンサにもとめられる機能とは?

センサ技術・情報処理・ネットワーク技術の高度化により、あらゆるものがネットワークに繋がる、Internet of Things(IoT)時代の到来が叫ばれるようになって久しい。また、経年化する社会インフラの検査・監視ニーズが高まる中、電力設備に関しても運用保守技術を高度化させるために、IoT技術の導入が検討されている。今後のIoT技術の大量導入に向けて、センサ・通信・情報機器に求められる性能について紹介する。

次世代電力インフラ設備の監視とは?

電力インフラ設備の保守点検を行うために、多数のセンサ端末を用いた保守システムが必要となる。センサ端末を利用することで、今まで人間が行ってきた作業を、従来よりも低コストで、より効率よく保守点検を行うことができるだろう。また、電力インフラ設備は、山間部など人が立ち入ることが困難な場所にある場合も多く、センサを通じて状態を監視することができれば、移動などの手間を減らすことができるというメリットもある。

特に、近年の自然災害が多発している環境においては、逐次、状況をリモートで判断できることは、その後の復旧のプランを計画するためにも重要になる。

センサの大量導入の問題点

多種多様の情報を集めるためにセンサ端末の数が増えると、現状では、センサ端末と情報処理を行うサーバーの間に、無数のケーブルを設置しなければならない。また、センサの数だけケーブルが増えると、配線が煩雑になり、万が一、ケーブルの断線などが起きた際には、それらを交換する手間がかかってしまう。当然のことながら、センサ端末を無線化することで、これらのケーブルを削減することができるが、今度は遮蔽物が多い場所に無線センサ端末を設置する際の通信の問題や、無線センサ端末に供給する電源をどうするのかという問題が生じる。電池駆動の無線センサ端末では、通信による電力消費が大きいため、頻繁に電池交換の手間が発生する。

IoTセンサに求められる機能

膨大な数のセンサがネットワーク接続される、トリリオンセンサ時代の自立型無線センサ端末を実現するためには、①センサおよび通信に必要な電力を供給する発電機能、②低消費電力で駆動するセンサ機能、③センサで得られた情報を解析・保存する機能、④サーバーへ情報および位置を送信する通信機能が必要となる。

環境発電技術の発展

自立型無線センサネットワークの実現のため、メンテナンスフリーでセンサに電力を供給できる、エナジーハーベスタ(環境発電素子)の導入が期待されている。エナジーハーベスタとは、身の周りや自然界に溢れている光、熱、振動、電波など普段利用されない微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)し、電気エネルギーとして有効活用することをいう。

例えば、太陽光・室内照明等から電力を発生する太陽電池、熱源と周辺環境との温度差から発電する熱電変換素子、空中電波から電力を回収する無線給電、機械的な振動から電力を回収する振動発電素子などが開発されている。これらの微小なエネルギーは、今まではほとんど活用されることがなかったが、携帯端末の発展と、それに伴う半導体デバイスの低消費電力化が進むことで、センサや通信機器を十分駆動させることができるようになった。環境発電を利用して電力を供給し、センシングして、通信を行うことができる自立型無線センサ端末の実現が現実なものとなりつつある。

電力設備で最適な振動発電技術

振動発電は、夜間や太陽光・照明光が不十分な場所、温度分布が小さな場所、通信以外の電磁波が遮断されている空間においても使用することができるため、電力インフラ設備の内部で使用するには最適な発電技術である。電力設備においては、50Hzもしくは60Hzの高調波の振動が発生している。一定の周波数で振動しているため、設計指針が立てやすい。現状の振動発電素子を用いた場合でも、センシングだけでなく、通信も行うことができるようになった。

著者

小野 新平/おの しんぺい
電力中央研究所 エネルギートランスフォーメーション研究本部 上席研究員
1998年度入所、専門は電気化学、センサ技術、博士(理学)。

電気新聞 2022年12月28日掲載

Copyright (C) Central Research Institute of Electric Power Industry