前回は、カーボンニュートラルに向けた再生可能エネの導入とその変動をカバーするための定置用蓄電池の活用、および国内外の電気自動車(EV)政策を述べた。今回は、EVを定置用蓄電池の代わりとして活用するための電力中央研究所の取り組みを述べる。
我が国では、EVの急速充電規格としてチャデモ方式が普及しており、充電している時は、容量(kWh)や残量(%)など蓄電池の状態を、車種を問わず把握することができる。このため、これまでのEVを用いた需給調整に関する実証事業では、充電器にEVが接続された「後」の研究が主体であった。一方、走行している時でもEVの蓄電池状態を遠隔把握できれば、充電設備までの距離や蓄電池残量などを踏まえた車両案内など、需給調整に関する更なる活用が期待できる。しかし、現状では蓄電池状態を表すデータ形式が車種によって異なるなど、このような遠隔把握に適用できる規格が存在しない。よって将来的には、走行しているEVに対しても蓄電池状態に関するデータを活用できる規格の策定、例えばチャデモ方式と故障診断コネクタとの連携などが挙げられる。蓄電池状態の遠隔把握は、走行中のみならず普通充電や他方式の急速充電時にも適用できるため、競合規格に対する優位性確保の動機付けにもなる。
我が国におけるEVの累計登録車販売台数は、2022年1月から10月までの期間で2万4千台に、さらに「軽」EVも合わせると4万2千台にもなり、国産自動車メーカー1社がそのうちのほぼ3分の2を占める。このため当所では、当面のEVの代表として、このメーカーの車種に用いる遠隔把握システムを開発し、走行中の蓄電池状態に関するデータを継続的に収集している。現在は、需給調整に向けたEVの活用検討のため、遠隔把握システムの運用条件に対する費用の違いや、長期運用で生じるデータ欠落などを分析評価している。また、需給調整への活用では、商用車は自家用車と比べ、①多数台の車両を一元管理できる、②走行経路がほぼ定まっている、③バスなどに搭載される大容量の蓄電池を利用できる、等の利点がある。このため当所では、NEDOのグリーンイノベーション基金事業の一環である「スマートモビリティ社会の構築」に参画し、主に商用車の電化を対象としたエネルギーマネジメントに関わる研究を進めている。
遠隔把握システムの活用例として、太陽光発電による余剰電力が発生し、まだEVが接続されていない充電器Aに対して上げDRを要請するケースを示す(図)。充電器と複数台のEVがバラバラの状態から上げDRを効率よく行うには、①蓄電池の容量が大きく、②残量が少なく、③充電器にできるだけ近いEVの速やかな選定が必要である。車両Aは③を満足するが4kWhしか空き容量が無い。これで足りなければ次に近いEVを探す。車両Bは②も満足し、36kWhの空き容量がある。一方、車両Cは①を満足し、100kWhの空き容量があるため、本例では空き容量が大きい車両Cを選定すればよいことが判る。今後はこうした活用例を踏まえた事業性評価を進めていく。
電気新聞 2022年12月14日掲載