改正省エネ法(2022年公布の「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」)では、エネルギー使用の合理化の対象を、非化石エネルギーを含む全エネルギーに拡大するとともに、全エネルギー使用の合理化と非化石エネルギーへの転換を目指している。また、太陽光発電等の大量導入に対応するため、需要シフトを制度面から後押しする。
具体的には、電力の時間別の一次エネルギー換算係数を、再生可能エネルギー(以下、再生可能エネ)余剰時に小さく、需給ひっ迫時に大きく設定し、需要シフトが省エネ法上の省エネに繋がることで、デマンドレスポンス(上げDR・下げDR)を促す。通常のDRは価格をシグナルとするのに対し、改正省エネ法のDRは、一次エネルギー換算係数をシグナルとしてDRを誘発する。
改正省エネ法の細目検討では、一次エネルギー係数として3種類が提案されている。
① 再生可能エネの出力抑制時には、再生可能エネの一次エネルギー係数【kW時あたり3.6MJ】。
② 通常時間帯では、火力平均の一次エネルギー係数【kW時あたり9.4 MJ】
③ 需給ひっ迫時には、火力平均の係数を定数αで割り増しする係数【kW時あたり9.4✕α MJ】
これら係数は、「限界電源」の考え方に基づく。例えば①では、需要変化に対して再生可能エネの抑制量が調整されると想定して係数設定される。
係数設定により、②や③の時間帯の需要を①の時間帯にシフト(上げDR)することで、一次エネルギーの減少が可能となる。
ただし、これらの係数は電力余剰時の揚水式水力による吸収を考慮していない点が、課題として残っている。
揚水式水力は、全国に3000万kW弱の設備容量を有し、需給調整に欠かせない電力貯蔵装置であるが、そのエネルギー効率は約7割である。つまり、太陽光発電の出力抑制前でも、その余剰電力を揚水式水力で需給調整する時、太陽光余剰電力の約3割が揚水によるエネルギー損失となってしまう。
このため、運用上は、太陽光発電の余剰時、且つ火力発電の出力を系統運用および火力運用が保てる限界まで絞っても供給が需要を上回る時に、揚水で余剰電力を吸収する運転、いわゆる「余剰揚水」運転が行われる (図)。
図 太陽光電力余剰時の「余剰揚水」のイメージ
「余剰揚水」運転時に、上げDRを行い、通常時の需要を「余剰揚水」運転時へシフトすれば、「余剰揚水」へ投入される余剰太陽光の約3割の損失を回避できる。この時、1kW時の上げDRあたり、余剰太陽光の約0.3kW時の損失が回避され、約0.3kW時に相当する火力発電の燃料とCO2排出量の削減が可能になる。なお「余剰揚水」運転時の「限界電源」は、揚水に投入される再生可能エネとなる。
貴重な再生可能エネは、出力抑制時だけでなく、出力抑制前の「余剰揚水」を需要シフトで削減することで、約3割の損失をできるだけ回避し、有効活用することが望ましい。
改正省エネ法の施行に向け、太陽光発電余剰時の「余剰揚水」を考慮した需要シフトの検討を期待したい。
電気新聞 2022年10月26日掲載