レジリエンスは、一般に危機や逆境に対する「抵抗力」と「回復力」を表し、レジリエンス強化のためには、これらを如何にバランスよく高めるかが重要である。ここでは電力システムの自然災害に対するレジリエンスについて考えてみたい。
電力システムは電気供給に必要な設備群であり、主に発電所、電力流通設備(送電、変電、配電設備)で構成される。地震や台風など外力の種類、設置環境や構造特性により、設備毎に被害様相が異なる。このためレジリエンス強化のためには、設備の特性に応じ、設計や対策による適切な抵抗力の確保、災害発生時の復旧の迅速性の向上をバランスよく実現することが必要である。台風時には、送配電設備の強風による設備被害が中心で、送配電設備に対しては適切な耐風設計・対風対策、特に配電設備に対しては復旧迅速化の観点も重要である。一方、地震時には、電力システム全般にわたる設備損傷が想定され、まずは発電所や送変電設備の被害の最小化が必要となる。さらに、他のライフラインも同時被災するため、それらとの相互影響も踏まえた復旧戦略・連携も重要である。加えて、南海トラフ巨大地震のように列島規模での被害も想定され、構造物単体からエリア全体、さらには日本全体で考える空間スケール、応急復旧、本格復旧、復興といった時間スケールの視点も必要である。
抵抗力向上のためには、ネットワークの冗長性や代替性の確保とともに、地域性や周辺環境など実際の状況に応じた荷重の設定により、一定水準以上の安全性を確保することが重要である。近年の送電設備での取り組みを紹介しよう。2019年に発生した台風15号の送電用鉄塔の設備被害では、台風の襲来頻度といった地理的な影響や地形による風の増速といった立地環境の重要性が改めて認識された。これを受け、地域別風速の適用や地形による風の増速への配慮が必要とされ、これに基づく点検等を通じて、相対的に弱い設備が排除され、ネットワーク全体の信頼度向上につながっている。なお、地域別風速など最新の技術情報が取り入れた「送電用支持物設計標準JEC127」(電気学会)の改正作業が進められており、2022年度中に刊行される予定である。
配電設備については、先に述べた通り復旧迅速化に重点を置いた対策が重要となる。国は2019年の台風被害を受けて、「被害状況の迅速な把握・情報発信」「国民生活の見通しの明確化」「被害発生時の関係者の連携強化による事前予防や早期復旧」などを指摘しており、これに対応する技術開発や運用が進められている。電中研では、事業者の復旧活動を支援するため、「配電設備の災害復旧支援システムRAMP」を開発し、一般送配電事業者10社において活用されている。RAMPは、地震・津波・気象に関する予測値や現況値の最新情報をリアルタイムに受信し、それらの情報と設備情報等の電力固有情報に基づき、事前の被害予測や、事後の未巡視箇所における逐次被害推定を行うことのできる共通プラットフォームであり、予測精度向上等の研究を進めているところである。また、関係者間の連携や復旧見通しの共有に寄与することを目的に、衛星やセンサ情報、国・自治体・インフラ事業者の保有する被害の現況情報の収集、AI等の最新の解析技術による停電復旧見通しの推定方法の検討、ならびにこれら情報の的確な共有・発信に関するプラットフォーム開発を進めている。
2050年CN社会を見据えた近未来においては、再エネ主力電源化に対応した電力ネットワークの変化、既設インフラの老朽化、人口減少、電力需要の構造変化などが進むとともに、気候変動による極端気象の多発、地震と極端気象との重畳など複合災害の発生も懸念される。一方で、電化や情報通信技術の進展と相まって、高度なセンシングやロボット技術の活用も期待される。現状設備のレジリエンス強化を進めつつ、一方でこのような環境変化への対応も考えていく必要がある。
電気新聞 2022年9月28日掲載